読書熊録

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そのとき、彼は何を語ったか―「総理」

 

総理

総理

 

 

 16年近く国会や内閣の動きを追ってきた元TBS政治記者によるルポタージュ。テーマはずばり、「総理とは何なのか」。そして総理たる者の器としてどんな資質が求められるかを問い掛ける。

 

 有権者として政治家の見る目が確実に変わる。生い立ちや出身校を見る意味が、単なるブランド性の吟味じゃないことがわかる。記者志望の学生なら、政治記者とはどんな仕事をしているのかを知る格好の一冊だろう。主要登場人物の安倍晋三現首相や麻生太郎元首相、亡くなった中川昭一氏の人間ドラマとしても楽しめる。読み方が多様なのが本書の秀逸なところ。

 

 安倍さんが、中川氏の弔辞を読んだ後に何を記者に語ったか。東日本大震災で出会った少女には。外遊先のホテルでは。そのときの表情は。具体的なカギ括弧の言葉が「これでもか」というほど書き込まれていて、思わず自分が政治家の知り合いになったように思える。

 

 政治家も泣いて笑う。結局は人間が、この国の政策と政局を動かしている。