読書熊録

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愛と時間の物語―「マチネの終わりに」

 

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 

  「結婚した相手は、人生最愛の人ですか?」。書店で帯を見る度に気になっていた本。又吉直樹さんが推薦しているのもあり、ようやく手を伸ばした。

 

 これは愛の物語と同時に、時間を巡る物語なんだと感じた。愛とは何かはもちろん問われている。合わせて考えさせられたのが、人間にとって過去とは何か。今を生きるとは。そして、望むような未来を選べるのか、ということ。

 

 読む前にネタバレを含む書評は読まず、読まなくて良かったと思っている。だから自分も詳細に触れたくないし、引用も説明も控えたい。そんな思いを抱かせるのは、物語がまとう空気感、読んでいて流れる不思議な余韻であり、それを壊したくないという恐れだ。

 

 ひとつ、作者の平野啓一郎さんの「私とは何か――『個人』から『分人』へ」は本書の前に通読しておくと、ストーリーにより深く分け入っていけるように思う。

 

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

 

 

  「私とは何か」は論考なので多少中身に触れても問題ないはずと信じるが、要するにアイデンティティを巡る問題提起。たとえば友人を前にした自分と、会社の仲間を前にした自分と、どちらも自分であるというメッセージが含まれる。自分とは一つではなく、誰かに対する自分の集合体である。この概念が「マチネの終わりに」も練り込まれている。

 

 それとツイッターなどでも盛んに触れられているが、本書の音楽世界を表現したCDがある。これは必聴。自分は読後に購入したが、主人公のクラッシックギタリスト蒔野聡史が傍らにいるような、優しい演奏に胸を打たれた。

 

マチネの終わりに

マチネの終わりに