読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

2016年ベスト・バイ 小説編

 今年から始めたブログ。年末にはやってみたかった、ベスト・バイ。要するに「読んで良かった本」をピックアップしていきます。まずは小説編

 

 ◎「さよなら、シリアルキラー

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

 

  シリアルキラー3部作。小学生から大人まで広く楽しめる読みやすさなのに、主題は「定められた自分と向き合う」という深さ。それは殺人鬼の息子に生まれた血と運命であり、周囲の偏見であり、仲間の優しさであり。

 

◎記者の報い

記者の報い (文春文庫)

記者の報い (文春文庫)

 

  元記者小説はけっこう主人公を美化したものがおおい。本作もその気はあるけれど、なんというか悲哀もすごい。その意味でフェアに楽しめる。ストーリー展開もテンポよく、テレビマンの矜持が無理なく胸に迫る。

 

ガラパゴス(上下巻)

ガラパゴス 上

ガラパゴス 上

 

  安定の相場英雄さんが、派遣労働、低賃金労働をテーマにとらえた。いま、働いて、頑張って、生きた証しを残せる人がどれだけいるだろう。自分が歩いた轍はあまりに細いんだと空恐ろしくなると同時に、どんなにみじめだと思う生き方でも、そこにエールを送ってくれる人がいることを感じさせる。

 

◎「アメリカ最後の実験」

アメリカ最後の実験

アメリカ最後の実験

 

  宮内悠介イヤーといって良いほど魅了された一年。「盤上の夜」も「エクソダス症候群」もおすすめ。だけどあえて本作。生を繊細に切り取る著者が、ピアノを走る指先、ほとばしる汗を渾身の筆致で書ききった。

 

 ◎オービタル・クラウド

  テクノロジー小説の旗手藤井太洋さんが宇宙を舞台に書いたSF。壮大な世界観と国際的な野望がぶつかり合う様は、藤井版「007」と言っても差し支えない。スパイは出てこないけど。

 

◎機龍警察

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

 

  シリーズ作品なのでするめのように楽しみ続けられる。テロリズムに対応する警察力とは。新たなテクノロジーと既存の組織の対立。今日的なテーマをスリル満点で読み進められる。おすすめは「自爆条項」。罪と罰、許しの物語だ。

 

◎「『ファミリーラブストーリー』」

「ファミリーラブストーリー」 (講談社文庫)

「ファミリーラブストーリー」 (講談社文庫)

 

  「逃げ恥」とは別の形で、夫婦を超えていく物語。一緒にいましょうだけがハッピーエンドなのか?問い掛ける一冊。別稿で書評を書きたくなった一冊。