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読書録K

読んだ本やみた映画

面倒くさがった愛の行方―「四月になれば彼女は」

小説

 

四月になれば彼女は

四月になれば彼女は

 

 NHKの朝の情報番組「あさイチ」に著者の川村元気さんが出演され、本書が取り上げられているのを見て、無性に引きつけられた。「君の名は。」のプロデューサーなのはご存じの通り。著者紹介で知ったのだが、「モテキ」も「バクマン。」も「怒り」も川村さんが製作に関わっている。

 

 引きつけられたのは、有働アナウンサーが作中から引用して読み上げた、次の一文だった。思わず出勤の準備をする手を止めた。

 

私たちは愛することをさぼった。面倒くさがった。

些細な気持ちを積み重ね、重ね合わせていくことを怠った。

 

 こんなにせつない言葉があるだろうか。

 

 主人公は精神科医の男性、藤代。獣医師の弥生と結婚を控えている。 ただ、藤代も、弥生も、本当に互いを愛し合っているのか確信が持てない。そんな藤代の元に、かつて付き合っていた「彼女」から手紙が送られてくるところから、物語が動き始める。

 

 引用した言葉が、一体どこで出てくるのかを探りながら、読み続けた。結果として、それはとてもよかった。いつ、この言葉を突き付けられるのか。そしてそれが語られたあと、彼/彼女は何を感じ、どう行動するのか。それは一つの重要な分岐点だ。

 

 どうして、愛する人をただ愛するということが、できないときがあるのだろう。面倒くさがって、目を向けることを怠って、水をやらずにそのままにして、そして傷付け合うのだろう。きっと面倒くさがった後にしか感じられない、悔しくて悲しい問いに、主人公たちが代わりに向き合ってくれる。読み進めながら、自分のつらさを少しずつ解きほぐしていけるような気がする。

 

 物語の中には、ほかにも印象的な台詞がたくさん出てくる。たとえば、

 分かり合えていることがすべてではないと俺は思う。わからないけれども、その人と一緒にいたいと願う。少しでも気持ちを知りたいと思える。それが彼女にとっての恋なんじゃないかな

 印象に残るのは、誰もが台詞の全部でも一部分でも、何か思い当たる節があるからだと思う。これはあの時の、あの気持ちだと、記憶の中に見つけられるからだ。

 

 面倒くさがった愛の行方。それは、作中でたったひと言で語られていると思う。そのひと言はどの台詞よりも胸を打った。えぐられる以上に、ジグソーパズルの最後の1ピースのように、ぴたっとはまり、景色が浮かび上がるような、そんな感じだ。

 

 ぜひ物語を開いて、そのひと言に出会ってほしい。

 

 最後に、朝日新聞のホームページで、川村さんが本書を語ったインタビューを見られる。自分は小説を手に取る前に一読したが、読む楽しみが増える内容で、そがれるようなものではなかったので、こちらもぜひ。

www.asahi.com