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読書録K

読んだ本やみた映画

そんな自分も悪くないかも―「非モテの品格 男にとって『弱さ』とは何か」

ノンフィクション

 

  表紙の帯に漫画が書いてあると、それだけで「ライトな内容なのかな」と疑ってしまう、正直なところ。書店で見ても手に取らなかった本書が、年末の朝日新聞である選者の(メモし忘れ)「今年のベスト」に選ばれていたことから、半信半疑で読んでみた。

 

 良い意味で裏切られた。重厚。新書の形をした小論文というのが実態で、先行する研究者や哲学者の言葉が多数引用され、言葉を紡ぎながら一歩ずつ思索の地平を広げていく。

 キーワードとなるのは3つで、2つはタイトルにも入っている「非モテ」と「男の弱さ」。そして最も救いを与えてくれるあと一つが「自己尊重」だ。

 

◎男の弱さ=自らの弱さを認められない

 第1章はメインタイトルの「非モテ」には触れず、「男の弱さ」から探求が始まる。そう、本書は非モテ解消のハウツーではない。弱さと向き合うための足がかりである。

 男の弱さとは何か。著者の杉田俊介さんは、鮮やかに表現する。

 男の弱さとは、自らの弱さを認められない、というややこしい弱さなのではないか(P15)

 男性社会の日本にあって、男はマイノリティではない。男は多数派だ。強者だ。恵まれている。男は強くあれ。「男らしくあれ」。一方で、家庭も大事にできなければ真の男ではない。そういうメッセージを感じ取って、つらくてもつらいと言い出せない。「俺はそんなに強くないよ」と正直に言えない。脆さとか、非力さとは異質の弱さが、そんなところにあるんではないかと指摘している。

 それは、自らを追い込む弱さでもある。できない自分が悪い。自分の力が足りないんだ。弱さを言い換えれば「否認の病」だと、筆者はたっぷり60ページほどをかけて、丁寧に描き出してみせる。

 

非モテは化膿

 続いて2章で、「非モテ」に話が移る。自分も無自覚に使っていた「非モテ(もてないコンプレックス)」について、本書は三つの類型を上げている。

 ・非モテ1=モテたい、という欲求

 ・非モテ2=愛したいし愛されたい、という欲望

 ・非モテ3=「性愛的挫折」がトラウマ化し、日常的に苦しめられる状態(P93-96など)

 

 「なるほど」と思わされるのが、非モテはもてたいだけでも、愛されたいだけでもないんだということだった。恋人ができても、非モテ意識に苦しむことがあると筆者は例示する。それが類型の3番目だと。

 第1章に絡めて言えば、弱い自分の否認、認められずにいる状態。もてない自分が嫌で、でもそれを表だって表現もできない苦しみ、「化膿した」弱さが、非モテだと論じている。

 

◎自己肯定ではなく、自己尊重

 杉田さんがタイトルに「品格」を入れた理由は、最後のキーワード「自己尊重」を分かりやすく伝えたかったのではないかと読後に思う。これが、処方箋というときれいにまとめすぎることになってしまうが、男の弱さに、非モテに自縄自縛している男たちへ送る、小さなエールなんだと思う。

 自己尊重とは何か。胸を打ったのは次の一文だった。

 「こんな人間になりたい。だから努力する。でも、そうはなれない」「頑張ったけれど、どうしてもダメだった」。これまでの人生の中で、そうした失敗や間違いを繰り返してしまったこと、それらのプロセスを決して丸ごと肯定はできなくても、ただ、それそのものとしては尊重できる。そしてその小さな尊重の気持ちが、これから自分を変えていくための、ささやかな足場になり、足がかりになっていく。その程度の自己尊重であれば、誰にでもできるのではないか。(P137)

  自分はできるんだと言い聞かせる、自己肯定ではなくていい。だめだなあ、自分。いいよ、いいよ。そんな自分も悪いかもしれないよ。とりあえず、いいじゃない。そんな、やり過ごしというか、ちょっと自分の肩をもんであげるぐらいの、小さな小さな励ましが、杉田さんの提示してくれた自己尊重なんだろうと感じた。

 

 ここまでの流れを、ゆっくり解きほぐして、何度もかみ砕いて導いてくれるのが、本書のすばらしさだと声を大にして言いたい。ほかにも「ルサンチマン」「タナトス」「アディクション」などのワードを手掛かりに、自分の弱さの輪郭をよりはっきりさせてくれるインク、筆を与えてくれる。

 

 読んでいるうちに自分の弱さを顧みて、そこにもやもやとしてしまった自分はちゃんと消化できていないのだが、本書のゴールは自己尊重の《さらに先》にある。それは男の弱さからさらに視界を広げて、たとえば障害者や赤ちゃんなど、社会的に弱者とされるひとの「弱さは本当に弱さなのか」と問い掛けるものだ。

 

 なんで自分はこんなにダメなんだろう。あるいはサブタイトルの「男にとって弱さってなんなの?」と少しでも感じた人は、新たな視座を得られる一冊になるはず。