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読書録K

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音楽海賊一代記―「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」

ノンフィクション

 

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち

 

  泥棒、強盗、窃盗犯、盗人。盗む人の呼称は数あれど、別格の格好良さを備える言葉がある。海賊。「著作権を侵害する違法コピー」も、「海賊版」と呼べば、とたんにアナーキーな響きを持つ。

 

 本書はミュージックの音源を発売前に違法に入手し、ネットにリークし、音楽を「CD(あるいはレコード、LP)で買うもの」から「タダで聴くもの」に変化させた音楽海賊の物語だ。

 

 ◎書き手は海賊版ユーザー

 著者が海賊を取り締まる音楽業界の側ではなく、ユーザーの側であることが、本書をドラマチックにしている核心だと思う。スティーヴン・ウィット氏は「僕は海賊版の世代だ」と打ち明ける。1979年生まれ、1997年に大学に入った彼にとって、ネットで手に入るmp3ファイルは当たり前の存在だった。

 数年前のある日、ものすごい数の曲をブラウジングしていた時、急に根本的な疑問が浮かんだ。ってか、この音楽ってみんなどこから来てるんだ? 僕は答えを知らなかった。答えを探すうち、だれもそれを知らないことに気づいた。(P10)

 この素朴な疑問からスタートするからこそ、取材は「流出元」の最深部に迫る。そしてそれをレポートするにあたって、流出元を「犯人」とするような書き方をしていない。3人の主人公を設定しての群像劇という形で、「誰が音楽をタダにした」かを重層的に描いてみせた。

 

 3人の1人は、mp3の生みの親である技術者。そもそも音楽を電子ファイルとしてやり取りできる規格、CDから解放するテクノロジーがなければ、音楽は無料にはならなかった。

 そして、ウィット氏が取材に成功した、最大のリーク元。それは序盤で明かされるが、なんと米国のあるCD工場の労働者だった。

 そして最後が、リークされる側である音楽業界の敏腕ディレクター。ネットでやり取りされるヒットソング、特にラップの世界を大衆化させた人物だ。

 

◎誰が一番トクをしたか?

 帯に「まるでスリラー小説のように読ませる」(テレグラフ)とあるように、ノンフィクションというよりも小説に近い読み味。一番の醍醐味は、CD工場従業員グローバー氏が、どうやって、また、なぜ、「音楽海賊」になったのか。

 この「一代記」がスピーディーなのが、今日的だ。音楽がネットにあふれたのは、2017年現在から見てもまだ20年ほどの間の出来事。テクノロジーを語る上でよく言うように、その20年は指数関数的な変化だった。

 「主人公3人のうち、誰が一番トクをしたか」を設問として頭に置きながら読み進めると面白いと思う。グローバー氏が利益を得たのか。「ぶっ潰された」ディレクター・モリス氏が一番損をしたのだろうか。漫画ワンピースであれば、音楽海賊=グローバー氏の栄光だろう。本書は果たしてどうであろうか。

 

◎技術者=ゴールドロジャー

 主人公3人のうち、ワンピースに置き換えると、グローバー氏はルフィ、モリス氏はさしずめ海軍のサカズキ(赤犬)だろうか。この構図は分かりやすい。では、mp3の生みの親・ブランデンブルク氏は?ベガパンク?

 最も近いのは、大海賊時代の幕開けを告げた伝説の海賊ゴールドロジャーだというのが読了後の思い。mp3はリークのために開発された技術ではないし、ブランデンブルク氏は音楽海賊ではない。でも、ブランデンブルク氏がmp3という技術を信じ、確立させなければ、誰も音楽海賊にはなれなかったはずだ。テクノロジー誕生の舞台裏、一代記の「前日譚」も、非常に読み応えがある。

 

 実はmp3は、mp2という技術と次世代のオーディオ規格を争っていた。「3」は「2」に比べて圧縮スピードはやや劣るものの、音質ははるかに改善されていた。ただ当時、mp2の方が資金力のある企業の支援があり、知名度があった。その結果、mp3は規格競争に7戦0勝、全敗した。

 ここでブランデンブルク氏がmp3を捨てず、守り続け、後にシェアウェアとしてネットで開放したことで大逆転に至る。同時に、音楽のあり方が変わった。

  予想に反して、mp3は12分の1のサイズでCDの音をほぼ完璧に再現した。アダーは言葉を失った。驚異的な技術だった。アルバムがたった40メガバイトに収まるなんて! 未来の計画なんて忘れていい。今ここでデジタルジュークボックスが実現できる!

 「自分がなにをやってのけたのか、わかってる?」最初のミーティングのあとにアダーはブランデンブルクに聞いた。「音楽産業を殺したんだよ!」

 ブランデンブルクはそう思っていなかった。mp3は音楽産業にぴったりだと思っていたのだ。(P78)

  ブランデンブルク氏の言うとおり、デジタル化の技術は音楽を聴くのにぴったりで、アイチューンもスポティファイも、その延長にある。ただ、同時に、グローバー氏のような海賊に、大海原を開きもしたのだった。