読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

アフター2020をどう生きるー読書感想「東京の子」(藤井太洋さん)

小説「東京の子」はアフター2020をどう生きるか、を読者に問い掛ける。五輪は終わった。どうにも使いきれないレガシーが残った。すっかり東京は「国際都市」へ変貌した。足元の雇用は溶け出していく中で、理想なのかどうか判別できないビジョンが立ち上がっ…

短くて痛くて美しい物語ー読書感想「ビューティフル・デイ」(ジョナサン・エイムズさん)

ほんの100ページなのに濃厚な読書体験ができる。ノワール、いやバイオレンスに近い痛々しい世界なのに、綴られる言葉はほのかに詩的で、どこまでも美しい。作家でありテレビ脚本家でもあるジョナサン・エイムズさんの短編「ビューティフル・デイ」は不思議で…

幸せは成功に先行するー読書感想「ハーバード流 幸せになる技術」(悠木そのまさん)

成功するから幸せになるわけではない。むしろ、幸せは成功に先行する。いますぐに、具体的に幸せになることは可能で、そんなポジティブな状態こそ成功を呼び込むことさえある。ワークスタイルデザイナー悠木そのまさんが、ポジティブ心理学や脳科学の大家か…

読んだら戻れない進むだけー読書感想「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュさん)

男性はこの本を開いたらもう戻れない。女性というジェンダーであるだけで、人生がどれほどハードモードになるかを、確実に知ってしまう。もう知らないふりはできない。「82年生まれ、キム・ジヨン」という物語はそれぐらいに、生々しい痛みを読者に届けてく…

もっとも小さな独裁主義ー読書感想「説教したがる男たち」(レベッカ・ソルニットさん)

男性が女性に説教することはもっとも小さな独裁主義である。それは女性を無知で無力な存在だと断定し、さらには「道具」のように扱うことをよしとする。たかが説教ではないんだと、「説教したがる男たち」を読めば分かる。 これは自身が女性として、あるいは…

SF初心者のサーチライトにー読書感想「NOVA 2019年春号」(大森望さん責任編集)

SF小説を読んでみたいけれど、なんだか難しそうだと尻込みする気持ちもある。そもそも何から読めばいいか。そんな悩みを持つ人に本書はうってつけ。アンソロジー「NOVA 2019年春号」はSF初心者にとってサーチライトになる。 各作品50ページほどでさくっと読…