読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

ノンフィクション

ジャージの君へー読書感想「ナナメの夕暮れ」(若林正恭)

この本は「人生」という試合の舞台になかなか乗っかれない人のためにある。思い通り試合を運べないとか、勝てないとか、そんなレベルじゃなくて。そもそもユニフォームを着られずに、ジャージ姿で舞台の脇に立ちすくんでいる人のためにある。お笑いコンビ・…

ベルリンに学ぼうー読書感想「ベルリン・都市・未来」(武邑光裕)

日本は壁にぶちあたっている。戦後、エコノミックに驚異的な成長を遂げた後、直面した高齢化社会に未来を描ききれないでいる。一方で、日本と同様に敗戦を経験したある場所が、いまや最先端都市として興隆している。それが、ドイツの首都ベルリン。なぜベル…

会社は家族からチームになるー読書感想「NETFLIXの最強人事戦略」(パティ・マッコード)

会社は「管理」で出来ている。大量生産・大量消費社会にあっては、従業員の勤怠管理を徹底し、ヒエラルキー型の組織人事を徹底することで、効率的に経済活動を行えた。しかし、21世紀は「変化」の時代になった。管理は組織を硬直化させ、ルールの数々はむ…

分断を超えろ!建築欲を放て!ー読書感想「バベる!自力でビルを建てる男」(岡啓輔)

雨風を防ぎ、団欒を味わうために人は家を建てた。都市に溢れかえる人に平等に家を行き渡らせるためにモダニズムが興隆した。しかし、いつしか家は「消耗品」と化して、作る人と住む人、設計者と職人の間に深い「分断」が生まれている。そこで、「建てる悦び…

世界はシャボン玉ー読書感想「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」(奥野克巳)

「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えない人がいるとすれば、日本では「ダメな人」として扱われるだろう。でも、どちらも「いらない」社会がある。「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」は、それを教えてくれる。 …

みんな結局サルであるー読書感想「サルたちの狂宴」(アントニオ・ガルシア・マルティネス)

フェイスブックの社員も、普通のサラリーマンも、どちらも資本主義の檻の中で奮闘するサルである。本書「サルたちの狂宴」は教えてくれる。 フェイスブックのほかにゴールドマン・サックス、シリコンバレーのスタートアップを経験したアントニオ・ガルシア・…

人類はクジラになるー読書感想「デジタルネイチャー」(落合陽一)

「近代」は人類に人権をもたらし、産業革命で世界を発展し続けた。しかし「現代」は資本主義や民主主義に行き詰まりが見え、テクノロジーは人間性を奪う脅威として敵対視さえされている。ここから、どんな未来が描けるのか。その一つのルートが「デジタルネ…

道具による支配を脱するためにー読書感想「コンヴィヴィアリティのための道具」(イヴァン・イリイチ)

人間をいかすための道具が、人間を支配する道具になっている。1973年に出版された「コンヴィヴィアリティのための道具」の問題意識は、現在にあっても色あせていないし、むしろなお、考えるべき問題といえる。 ウィーン生まれの思想家イヴァン・イリイチ…

履歴書より追悼文ー読書感想「あなたの人生の意味」(デイヴィッド・ブルックス)

人間には2つのプロフィールがある。履歴書と、追悼文である。履歴書はあなたがいかに有能かを華やかに語る。一方で追悼文にはあなたが「どう生きてきたか」が表れる。私たちはいつも履歴書を気にするけれど、大切なのは追悼文なんじゃないか、と問うのが本…

共を厚くするー読書感想「広く弱くつながって生きる」(佐々木俊尚)

公(パブリック)と私(プライベート)の間には、「共」という空間がある。共を厚くして、長い人生の旅路をもっと生きやすくしていく。そんな考え方を教えてくれたのが、ジャーナリスト佐々木俊尚さんの「広く弱くつながって生きる」だった。 200ページ弱…

トランプを生んだ熱病ー読書感想「反知性主義」(森本あんり)

なぜトランプ大統領は誕生したのか。考える補助線の一つになる本が「反知性主義 アメリカが生んだ『熱病』の正体」だ。トランプ現象の源流になった「反知性主義」とは、キリスト教文化を背景にしている。徹底した「神の前の平等」という、平等主義のラディカ…

ハピネスを可視化するー読書感想「データの見えざる手」(矢野和男)

ハピネスは可視化できる。「感じるもの=定性」から「測れるもの=定量」に置き換えられる。野心的なメッセージをファクトをもって伝えるのが、矢野和男さんの「データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」だ。 矢野さんは日立…

散歩は楽しまなきゃー読書感想「さよなら未来」(若林恵)

行き先もルートもそこで出会う何かも、全てを予想できる散歩を散歩とは言わない。散歩は楽しまなきゃ。「さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-2017」で語られていることは、そういうことだと思う。 「WIRED」日本版前編集長だった若林恵さんが、WIRED…

本と本屋を愛する人へー読書感想「これからの本屋読本」(内沼晋太郎)

「これからの本屋読本」は、本と本屋を愛する人へ向けられた本だ。本に関する様々な企画を主宰する「NUMABOOKS」代表で、ビールが飲める書店「本屋B&B」を運営している内沼晋太郎さんの著作。 出版不況、活字離れと言われ久しい。それでも、なぜ我々は本を…

ベゾス帝国を読み解くー読書感想「アマゾンが描く2022年の世界」(田中道昭)

拡大を続けるAmazon(アマゾン)がこれからどんなビジネスを展開するのか。その根幹にある戦略と、リーダーのジェフ・ベゾス氏の思想を読み解くのが、本書「アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる『ベゾスの大戦略』」だ。 極上の顧客体験「…

何度でもその日に備えるー読書感想「働く大人のための「学び」の教科書」(中原淳)

大人になったら誰も、「勉強の仕方」を教えてはくれない。だから私たちは、本書「働く大人のための『学び』の教科書」を開くのだ。 人材開発、リーダーシップ開発をアカデミックの目線で研究してきた中原淳さん(出版時:東京大学・大学総合教育研究センター…

起業家けんすうさんが質問箱でオススメされた本24冊+αを意地でまとめてみた

起業家のけんすうさん(Twitter: @kensuu)の3万超のツイートをひたすら遡り、匿名Q&Aサービス「質問箱(peing.net)」、同種サービス「Sarahah」でオススメされた本をまとめたのがこのエントリーです。ついでに、普段のツイートで紹介された本もプラスアル…

我々はまだ明日であるー読書感想「昨日までの世界」(ジャレド・ダイアモンド)

伝統社会は、実はほんの「昨日」でしかない。人類生態学者ジャレド・ダイアモンドさんの「昨日までの世界 文明の源流と人類の未来」は、人類の過去と現在をつなぐ回路を読者に開いてくれる。21世紀の我々が、狩猟社会や農耕社会に学ぶことはあるだろうか?…

システム1は止められないー読書感想「ファスト&スロー」(ダニエル・カーネマン)

人間には2つのシステムがある。それがノーベル賞を受賞した経済学者、ダニエル・カーネマンさんが「ファスト&スロー」で伝えてくれる、一番シンプルで、一番ドラスティックな教訓だ。「システム1」は働き者で、ファストな判断をしてくれるものの、様々な…

学ぶと楽しく生きられるー読書感想「『行動経済学』人生相談室」(ダン・アリエリー)

勉強が苦手だというひとには、この「『行動経済学』人生相談室」をおすすめしてみてほしい。深夜ラジオのように、学者さんのダン・アリエリーさんが様々なお悩みに答えてくれる。彼の専門、行動経済学は、恋から資産運用、引っ越しもお昼のビュッフェも、ち…

停滞から循環にー読書感想「AIとBIはいかに人間を変えるのか」(波頭亮)

人工知能(AI)とベーシックインカム(BI)が組み合わさったとき、停滞した社会は再び循環を始める。戦略コンサルタント波頭亮さんの「AIとBIはいかに人間を変えるのか」は、そんな可能性を示す。AIは知的パワーを代替し、人間はギリシア時代のように「真・善…

トランプ氏はピッコロかもしれないー読書感想「炎と怒り」(マイケル・ウォルフ)

もっとも衝撃的だったのは、まだ彼が「第1章」かもしれないということだ。本人から出版差し止めも示唆され、ベストセラーとなった「炎と怒り トランプ政権の内幕」。トランプ氏とはどんな人物か、だけではなく、一体誰が彼を支え、あるいは利用しようとして…

撤退の時代にできることー読書感想「コミュニティ」(ジグムント・バウマン)

「関与」の時代だった近代は終わりを告げ、「撤退」の時代を迎えている。その渦中で、果たしてコミュニティは維持できるのだろうか。あるいは理想的なコミュニティを構築できるだろうか。2017年に亡くなった社会学者ジグムント・バウマンさんが「コミュ…

科学報道と社会ー読書感想「10万個の子宮」(村中璃子)

医師でありジャーナリストの村中璃子さんが出版したノンフィクション「10万個の子宮 あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」は、科学報道(サイエンス・ジャーナリズム)と社会の関係性を考えさせられる。村中さんは副反応を訴える少女た…

暮らしにバラをー読書感想「僕らの社会主義」(國分功一郎・山崎亮)

食卓にバラを飾るように、暮らしに楽しさを自給しよう。國分功一郎さん、山崎亮さんの対談本「僕らの社会主義」はそう提案する。2人が語り合うのは、社会主義を「料理のスパイスのように」使う方法だ。いろんな思想家が登場するけれど難しくない。彼らの思…

悩むより考えるー読書感想「イシューからはじめよ」(安宅和人)

問題を前に悩むより、それが本当に「問題か」を考えよう。ヤフー・チーフストラテジーオフィサーの安宅和人(あたか・かずと)さんの「イシューからはじめよ 知的生産の『シンプルな本質』」は、「問題解決」以前の「問題設定」の重要性を説く。そのイシュー…

せいこうさんだからこそー読書感想「「国境なき医師団」を見に行く」(いとうせいこう)

ジャーナリストではなく、作家だからこそ、いとうせいこうさんだからこそ、こんなにも伝わる「何か」がある。「『国境なき医師団』を見に行く」は、いとうせいこうさんがハイチ、ギリシャ、マニラ、ウガンダにある国境なき医師団の活動現場を訪問し、見たも…

国難を国恵にー読書感想「日本再興戦略」(落合陽一)

国難を、国の恵みにすることは可能である。 落合陽一さんの最新著作「日本再興戦略」は、そう高らかに歌い上げる。少子高齢化を「チャンス」と捉える。テクノロジーを学び、「機械と人間の融合」の可能性を受け止める。そして「ポジションを取り」、逐次的に…

なぜストレスが溜まるのか?ー読書感想「STOP STRESS」(マリーネ・フリース・アナスンら)

なぜストレスは溜まるのか? どうすればストレスをコントロールしながら働けるのか? その疑問に理論的な回答をくれたのが、「STOP STRESS 北欧の最新研究によるストレスがなくなる働き方」だった。長年、デンマークなどでストレスを研究してきたマリーネ・…

スキマの力ー読書感想「うしろめたさの人類学」(松村圭一郎)

息苦しいなら、スキマをつくればいい。文化人類学者・松村圭一郎さんの「うしろめたさの人類学」は、日本の社会に閉塞感を感じる人に、言われてみればシンプルなアイデアを投げかけてくれる。絡まった糸を解きほぐすきっかけに、松村さんが専門のエチオピア…