読書熊録

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この言葉以外に、ない―「君の膵臓をたべたい」

 

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

 

 買った。読んだ。読む手が止まらなかった。読み終えて涙が止まらなかった。

 

 圧倒的なインパクトがあるタイトルで、書店で見かける度に気になっていた。ただあまりに印象が鮮烈すぎて、読み終わった今となってはまったく的外れで申し訳ないのだが、「膵臓食べるって、やばい奴が主人公なのか?もしや受け狙いか」と、うがって見てしまっていた。住野よるさんに心からおわびしたい。恥ずかしい。

 

 実際は、このタイトル以外にないのだ。

 

 その理由をお伝えするために、あらすじや登場人物の台詞に触れることは残念ながらできない。というか、しない。おそらくどんなに簡略化したあらすじもネタバレにつながってしまうであろう。それでこの素晴らしい物語を損ねたくない。事実、今販売されている本書や帯には、なんの概略も記されていない。「読後、きっとこのタイトルに涙する」とは書かれている。その通りだ。付記されている読者の声も「3回読みました。50過ぎのおっさんをその度に泣かせる青春小説がかつてあっただろうか」。まさに。

 

 唯一、表紙の絵については触れてもいいだろうか。小説の世界観がにじみ出る素敵な絵だ。

 淡い桃色をした、満開の桜の木のそばの河川敷。腰まで伸びた黒髪を風に揺らせた少女がほほえみ、川にせりでたちょっとした広場?の手すりに身を預けている。もう1人、同じくらいの年代の男の子が写るが、こちらに向けて背を向ける形で手すりに寄りかかり、本を読んでおり、表情は伺えない。二人とも制服姿。空は柔らかい青空で、日差しはふんわりと、春の気配がする。

 まさに、そういう世界でめくるめく物語だった。痛みや悲しみを、そっと受け止めてくれるような優しさが、ちゃんとある世界。

 

 そこで、登場人物は「君の膵臓をたべたい」という言葉にたどりつく。この言葉以外に、ない。自分の思いを乗せるたった一つの言葉に出会うまで、歩み、関わり合う、その尊さと苦さを教えてくれる小説だった。