資本主義の「次」―「限界費用ゼロ社会」
限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭
- 作者: ジェレミー・リフキン,柴田裕之
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2015/10/27
- メディア: 単行本
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資本主義に未来はあるのか。取って代わる次の経済システムは存在するのか。本書はその問いに、自信を持って、大胆な答案を示す。それは「共有型経済」。自信を持って、というのが単なる未来予想と異なる点だった。著者のジェレミー・リフキン氏は断言する。共有型経済は資本主義を浸食するにとどまらず、代替する。新たなパラダイムになる、と。なぜ、そう言えるのか。
◎パラダイムシフト=コミュニケーション×ロジスティクス×エネルギー
経済制度が代替する、いわゆる社会にパラダイムシフトが起こるための条件として、著者は①人と人とのコミュニケーション媒体の変化、②人や物を運ぶ輸送手段、ネットワークの変化、③いずれをも支える新エネルギー(動力源)を挙げる。
コミュニケーションがなければ、私たちは経済行動を管理できない。エネルギーがなければ、情報を生み出すことも、輸送手段に動力を提供することもできない。輸送とロジスティクスがなければ、バリューチェーンに沿って経済活動を進めることはできない。(P31)
たとえば、社会を工業化した第一産業革命は以下の通り。
産業革命=高速印刷×機関車×蒸気
石油エネルギーの登場は
電話×内燃機関(車、エンジン)×石油
だった。そして著者が台頭を明言する共有型経済は
共有型経済=インターネット×分散型ネットワーク×再生エネルギー
となる。社会が変革し、新たな「スマートインフラ」が生まれる素地があると言うのだ。本書はこの歴史的な流れについて前半で丁寧に解説してくれる。
◎資本主義は「限界費用ゼロ」を生み出す
共有型経済とは、あらゆるもの・情報・サービスがシェアされる経済を指している。それは、資本主義の最終形が限界費用ゼロ、すなわち何かを生み出すための費用が限りなく0円に近づくからだという。
一例が「3Dプリンター」。驚いたのが、いまや家すらも3Dプリントで建築できるということ。月の砂を原料に、月面に機械が自動で家を造る計画もある。車もだ。こうしたものまで安価に、しかもその土地その土地で生産できれば、「住む」も「移る」も抜本的に変わってしまうであろうことはうなずける。
製造業に限らず、サービスもだ。教育では「大規模公開オンライン講座(MOOC: Massive Open Online Course)」がある。2012年にハーバード大とMITが共同で開講したエデックスという講座では、15万5000人が受講。これはMITの設立以来150年間の卒業生と同じだという。
「分散型ネットワーク」とは、これまである工場、ある大学でした生み出せなかった何かが、このように水平的、分散的に、どこでも、大規模な資本を必要としない形で生み出せること。そうしてあらゆるものが大衆化すると、ものの希少性がどんどんなくなり、結果として、資本主義の根本である「利益」が霧消する、という。
◎所有からシェアへ
そうしてあらゆるものが「潤沢」になれば、ものを「持つこと」の価値より、必要な時にものへアクセスし、それ以外は共有することが価値になる、というのだ。これはカーシェアなどの分野で既に現実化している。
シェアすることがさらなる価値を生む点にも触れている。たとえば、難病患者のオンライン・ネットワークでは、医師の疑念に反して、当事者同士の活発な情報交換で疑わしい治療情報の誤りが正され、体調管理や副作用に関する知見が高まった。インフルエンザの流行予測では、ツイッターのつぶやきによる予測の精度がどんどん高まっている。
本書の醍醐味は、この主張を読み進める中で論拠として挙がる豊富なケースだ。共有型経済が資本主義を完全に飲み込むと納得できるかはともかく、その胎動が想像以上に大きいことを実感できるはず。IoT(あらゆるもののインターネット化)ってどういうことなの?と言うレベルだった自分には、洪水のような情報量だった。