読書熊録

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羅針盤をインストールせよ―「AI時代の人生戦略 『STEAM』が最強の武器である」

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AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書)

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書)

 

  STEM、あるいはSTEAM、OK Goのすごさ、クオンツ、セルロースナノファイバー、AI「Watoson」、フィンテック…。ここに出る単語のうち一つでも「ん?」となる方は、いますぐ本書を手に取るべきだ。ハウツー本ではない。教養本でも。これからを生きるために必要な、羅針盤だ。

 

 STEAMとは、STEMに筆者がAを足したもの。これが羅針盤の正体になる。

 サイエンス(科学)の「S」

 テクノロジー(技術)の「T」

 エンジニアリング(工学)の「E」

 マセマティックス(数学)の「M」

 Aはアート(芸術)の「A」だ。(~P36)

  STEAMは、既に社会を左右し、未来を変革していく要素だと筆者は説く。ゆえに、学ばなければこれからの世界を生きていけない、と。

 まさにこれを実感したニュースが最近あった。日経新聞が言語理解研究所(ILU)と東京大学松尾豊准教授研究所とチームを組んで導入した「完全自動決算サマリー」だ。

pr.nikkei.com

 人工知能(AI)が上場企業が発表する決算データを記事化、自動で配信するサービス。そこに「人によるチェックや修正などは一切行いません」という。できあがったものを見れば、たしかに決算情報は数字を正確に並べることが重要なので、人が書いたものと差は感じない。これまで日経新聞のプロの記者が仕事にしていたことが、人の手を必要とせず、科学と技術と工学と数学を結集したAIで十分やれてしまう、ということだ。

 

 筆者の成毛眞さんは豊富な知識で、AIをはじめとしたSTEMがどれだけ人の仕事を代替し、その代わりに新たな技術やサービスが可能になるかを解説してくれる。知的好奇心が刺激されると同時に、「今すぐ学ばないとマズイ」と背筋が凍る。自分の仕事がいつなくなってしまうか、代替されてしまうか分からないからだ。

 

 とりわけ強烈なパンチになるのが、文科省大臣補佐官の鈴木寛さんと、堀江貴文さんとそれぞれ行った対談だった。鈴木さんも堀江さんも、STEAMを理解すると同時にアンテナを張り巡らしていて、教育の未来からロケット技術まで、話は次々に展開する。「このレベルの会話をスタンダードにできないと、社会について行くにはお話にならないのか…」とくらくらしてくる。

 鈴木寛さんとはこんな会話が出てくる。

 成毛:今となっては、経営者として当たり前ですよね。今さらSTEMをわかっているからといって安心はできません。

 鈴木:すでに教育界では、STEMだけでは不十分だと考えていて、シンギュラリティ以降は、善と美が人間の仕事として残ることを前提とした話をしています。

 成毛:つまり、AIに使われるだけの人間にならないためにSTEMは必須だし、AIを利用した仕事をするためには善と美が理解できないといけない。(P109)

 

 A(芸術)が加わるゆえんだ。STEMはいままさに、社会の変化について行くための必須要件。そこでAを加えることで初めて、未来を生き抜ける可能性が出てくる。

 

 後半には「今すぐ読みたい本」として推薦図書も挙げてくれている。一つ前にレビューした「限界費用ゼロ社会」が上がっていたが、たしかにかの書を読んでから成毛さんの本に触れると、内容がリンクして、もっと知識をつなげたいと思える。 

dokushok.hatenablog.com

  それと、すぐに書店に行って「星を継ぐ者」(ジェイムズ・P・ホーガン著、池央耿訳、創元SF文庫)も購入、読んでいる最中。SFを読め、との薦めに素直に応じました。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

  繰り返すが「今すぐ」読むべき一冊である。でないと、成毛さんの教えもやがて役に立たなくなる。そのくらいのスピード感で社会は動いているようだ。羅針盤はさっさとインストールして、次の読書でどんどんアップデートしなければ。