読書熊録

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アナザー星を継ぐものー「巨神計画」

アメリカの少女が森の地中から発見したのは、合金製の巨大な「手」だったー。タイトル「巨神計画」で、そして上下巻の表紙にまたがる緑色の怪しい「巨人」の姿で、そそられないわけにはいかない。ジャケ買いして正解です。とんでもない謎解きが、すさまじい疾走感で展開されるSF小説だった。

 

巨神計画 上 (創元SF文庫)

巨神計画 上 (創元SF文庫)

 
巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

 

 

帯の惹句が秀逸で「巨大ロボットの全パーツを発掘せよ!」が本書のハイライト。下巻の惹句によると「原稿段階で即・映画化決定のデビュー作」だそうだ。頷ける。

 

最初に掘り出された「手」の発見者で、成長して物理学者になった女性、ローズ・フランクリン。彼女のアイデアで、この巨大な手を一部とするロボットの発掘を、アメリカが極秘に進めていく。のちにこのロボットはおよそ6000年前、文明などないはずの地球に登場したものだと発覚。さらに、それを作り出したのは地球人ではない「誰か」の可能性も現実味を帯びる。

 

このあたりの謎の置き方は、J・P・ホーガンさんのSF「星を継ぐもの」に似たものがある。同作が好きな方は、間違いなく「巨神計画」も楽しめる。

 

「星を継ぐもの」と異なり、「巨神計画」の楽しみともなっているのは、全編がインタビューか、なにかの報告書に添付された日記や実験記録、ニュースで構成されているところ。中でもインタビューは、謎の人物「インタビュアー」がローズら関係者に聴取する形なのだが、これがたまらない。

 

インタビュアーは、どうやらとてつもない権力を持ち、鋭い洞察、スパイを思わせる尋問手法を兼ね備えているが、何者なのかは全然見えてこない。これはローズらにとっても同じだ。登場人物にとってもインタビュアーが誰なのか、その背後にいったい何がそびえているのか計り知れないから、緊張が張りつめたまま解けない。

 

しかし「星を継ぐもの」のハント博士同様、インタビュアーもまた全能ではない。巨大ロボットがなぜこの地球の奥深くに残されているのか、それはどうやって動かすのか、そして「何のために」動かすのか。その謎の前に、インタビュアーもまたちっぽけな人間である

 

「星を継ぐもの」では少なくとも人類は一枚岩になり、言語学から化学、生物学まで叡智を結集するが、「巨神計画」は国際紛争も絡ませてくる。ネタバレにならないよう慎重を期すとして、前述したようにロボットの発掘を最初に進めていくのは人類ではなく「アメリカ」だ。本書は2016年刊行だが、まさに今日の国際情勢が反映されている。それもスパイスになってくる。

 

解説によると、本作のもともとは著者のシルヴァン・ヌーヴェルさんが「息子に作ってあげようとしたおもちゃのロボットのために着想したバックグラウンド・ストーリー」だという。すさまじい想像力。子どもを楽しませようと一生懸命に考えたから、こんなにもワクワクする作品になったのかな。