読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

ラジオの言葉は流れていくから美しい

6月8日木曜日、TOKYO FM から全国ネットで放送されたラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」に感動した。「未来のカギを握る」ラジオの中の全国規模学校がテーマで、平日午後10〜12時に主に中高生の悩みや主張を取り上げていく。この日に聞いたこと、感動した内容をブログに書き残そうと思って、ふと立ち止まった。結局、やっぱり書きたいとなったが、その空白に感じたことを整理したので記したい

 

 

木曜日の回のテーマは、初夏迫るこの時点で、なんらかの理由で学校をやめたという生徒の話を聞かせてほしい、というもの。SCHOOL OF LOCK!はネットの掲示板などで投稿・反応を募り、可能であれば電話でつないでいくのだが、このテーマ通りまさに学校をやめたという女子生徒さんが電話に応じてくれた。その生徒さんのやめた経緯、いま後悔していること、悩んでいることが語られ、mcにあたる「校長・教頭」が「じゃあ引き続き11時台も話そう」となった。

しばらく、クイズコーナーや日替わりのアーティストコーナー、この日はサカナクションさんの番のを挟んで、再び生徒さんと校長、教頭が語り合う。ここで、リスナーの中から、まさに、同じような悩みで学校をやめて、いまは大学に通うという女性が現れ、電話で繋がる。しかも生徒さんは保健室の先生になりたいと打ち明けたけど、この女性はまさに教員の卵。しかも同じように、学校をやめた経験が、志望動機につながっていったという。

この瞬間の化学反応が、すごかった。声だけしか聞こえない。でも、生徒さんの悩みが、少しずつ融けて形を変えていくような、そんな雰囲気が手に取るように感じられた。「私にもできたから、大丈夫」。初対面であるはずの女性の言葉は、久し振りに再開した先輩がそっと肩を叩くような、優しさに溢れていた。

この時に耳に残った温かい感情をブログに書こうとして、どうしても伝えられないような気がして、だから立ち止まってしまった。

 

学校を悩んでやめた女子生徒さんの心は、10時台と番組終了までで明らかに変化したように思う。その様子を目撃、いや聴撃した。でもその瞬間に発せられた熱のようなものを書きとめようとして、何か違うなと思ってしまう。昨日見た夢の話を誰かにしようとして、うまくいかないような。

きっと生徒さんの心は、あの放送の後も、目が覚めて迎えた翌日以降、変化していると思う。女性の言葉に勇気付けられているのかもしれないし、あるいは反対に、なかなか女性のようになれなくてもどかしく思うかもしれない。あのやり取りは、あの時の心情でしか、そして相手があの女性で、しかもその時に苦難を乗り越えて夢を抱いている状態だからこそ、生まれた。もうきっと、あのやり取りをそのままには再現はできないように思う。

大事なのは、あの時のやり取りだけじゃなくて、やり取りがあったその場にいたことなのかもしれない。ラジオの言葉は、留められないからこそ、良いのじゃないか

 

読書で出会う言葉は、留められているからこそ魅力があるように思う。ページを開けば、いつもそこに同じ言葉がある。もちろん、同じ本でも再読した時の気持ちで、物語の受け止めも変わる。でも少なくとも、本の言葉が持つ輝きは、明日も明後日も、百年後でも、読めさえすれば誰でも、再現が可能だと思う。だからこそこのブログでは、読んだ本のエッセンスを広めて、一人でも多くの人に追体験したいとおもってもらえればと願っている。

 

流れるラジオの言葉をブログに留めることはできるんだろうか。それが、いったん書く手を止めた理由だったんだと思う。

 

明確な答えが出たわけでもないのに、結局はこうして書いている。少なくとも、ラジオの言葉は、流れていくからこそ美しいとは伝えられるのではないか、と淡い期待を持ったからだ。

SCHOOL OF LOCK!のほかに、たとえばオールナイトニッポンも、生のやり取りに溢れている。本来、生の言葉は2人以上の誰かと一緒にいて、会話する中でしか味わえない。だから一人ぼっちの時には本を開いて、留められた言葉と対話する。でもラジオはすごい。流れる言葉に、たった一人でも出会えるのだから

 

本が好きな人は、同じようにしてラジオを好きになれるのではないか。たくさんの読書好きに、ラジオも聴いてほしい。