読書熊録

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突破力×α個=多動力ー読書感想「多動力」(堀江貴文)

堀江貴文さんが本書「多動力」で提示する多動力は実に明快だ。それは「サルのように」熱中し、突き抜けたパワー・事業を、同時にα(複数)個進行させて「掛け合わせる」ということ。多動は足し算ではなく掛け算なんだというのがポイントだろう。そして多動の邪魔になる「中途半端になる」「できないという思い込み」「恥や損という感情」をはっきり邪魔だと宣言するのが堀江さんらしい。この本自体に多動力的なコンセプトを仕掛けとして練りこんでいるのも感じられた。

 

多動力 (NewsPicks Book)

多動力 (NewsPicks Book)

 

 

タガを外せば多動は簡単だ

多動になろうとしてなるというよりは、いかに多動を妨げている思考の罠が多いか、というのが本書の学びの大半を占める。要するに、タガを外せば大方の人は走れるし、その結果、突破していけるということ。だから堀江さんは何度も何度も、「実践しよう、just doit!」を連呼する。

 

たとえば何が邪魔か。「見切り発車は成功のもと」という項目がわかりやすい。堀江さんは17年2月、六本木を舞台に「ホリエモン祭」という複合型のフェスイベントを実現し、18年にも実施予定だが、このプランはほんの2ヶ月で本格化させた。堀江さんは語る。

 10代のころを思い起こしてもらいたい。誰だって中学生、高校生時代に学園祭をやっていたではないか。学園祭なんて思いつきの産物そのものだし、プロが一人も介入しなくともそれなりに成功している。(P52)

 

後半の「資産が人を駄目にする」も刺激になる。投資家の藤野英人さんと対談した時に出た話で、「あなたが1000万円で買った株が200万円になりました。売るべきか、売らないべきか」という問いを紹介し、こう指摘する。

 これは東電株の話だったが、ここで重要なのは、800万円の損をしたことはとりあえず忘れるということだ。

 そして、フラットな目で、今から東電の株を買うとしたら200万円出すに値するのか、それとも200万円あるならば、他の株を買った方がいいのかを考えることだ。(P209)

これがめちゃくちゃ説得力があるのは、まさに堀江さん自身、もしも「自分は損をした」という感情や過去に縛られていたら何もできない凄まじい十字架を背負っているからだ。時代の寵児になって、東京地検特捜部に検挙され、服役したことをもしも気にし出したら、それこそ何もできない。今、なにができるか。なにをしていきたいのか。そう問いかけることで、突破力を育てるランコースができていく。

 

原液たれ

 多動しても、1人に与えられた時間は24時間しかない。そこで、「自分の分身に仕事をさせる技術」の項目では、仕事に拡散性を持たせる「原液」理論が提唱される。

 

 堀江さんが、「色々やってる人」という印象を持たれているのは、堀江さんの事業や言葉がジュースの原液のようになって、それをテレビなどのメディアやツイッターが「話題にする」からだ。たしかにそうかもしれない。堀江さん自身の言葉に直で触れる機会より、リツイートや誰かのブログで見る方が圧倒的に多いけれど、なんとなく直接聞いたような「錯覚」がある。これはプロブロガーのイケダハヤトさんや、作家のはあちゅうさんも当てはまる。

 

 こういう話になるとたいてい、「原液になれる人は限られてるから凡人には無理」という諦めも付随してくるが、堀江さんが指摘しているのは要するに「希少性」の話だと思う。たしかに、いきなり原液になるのは難しい。でも、たとえば「原液をめちゃめちゃうまいジュースにする割り水」も、原液並みの「希少性」がないだろうか。そういう水はきっとそれ自体が重宝されたり、拡散されていく。「希少で競争が激しいところ」だけじゃなくて、まずはイージーに希少になれそうな分野とか、競争が激しいけど好きだからやれる分野を目指してもいい。だから自分も、ブログが好きだから、進んで堀江さんの本の「割り水」(書評)になってみる。

 

「多動力」自体が多動しながら読める

 堀江さんは会議でも面会でも、自分の時間を作り出すためにスマホをいじって良いと断言するが、試しにやってみると、本書はスマホをいじりながら全然読める。

 

各項目ごとに「タイトル」「ポイント」「本文」「やってみようリスト」を配置して、その内容が繰り返されているから、ちょっと目を離しても追いつける。ページの上下の余白、文章の終わり部分の余白、行間の余白も、ぎっちりつまっていないから、「ながら読み」の余裕が生まれる。

 

それでもだいたい50分あれば読了できるし、「他人に時間を奪われるな。自分の時間をつくれ」というメッセージ通り、短時間で多動の実践につなげる設計になっている。こういう本の作り方も秀逸だなあと思った。

 

今回紹介した本はこちらです。

 

多動力 (NewsPicks Book)

多動力 (NewsPicks Book)