読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

【本棚から】真夜中に読む5冊

 真夜中は読書に格好の時間だ。早く結末を知りたい、とミステリーを一気読み。ひきこまれた恋愛小説を読了するころには、もう3時。秋の夜長。作中の夜に味わいがある、真夜中の空気感にぴったりだ、本棚からそんな5冊を紹介したい。

 

すべて真夜中の恋人たち

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

 

  川上未映子さんの恋愛小説。書き出しは、まさに真夜中。

 真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。

 それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしは真夜中を歩きながら思い出している。(p5)

 主人公の「わたし」は不器用で、社交的とは言えない女性。こんな生き方でいいんだろうか、と「昼間の世界」で迷いながら、それでも何もできずにいる。そんな女性の恋、それも胸をえぐるような切ない恋の物語だ。 

  夜の静かな空気に合う世界観。できたら、遠くに電車の音が聞こえたり、ぼんやりとした明かりが窓から見えるとなおいいと思います。

 

黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実 

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

 

  こちらは、都会の夜。六本木のホステスとして働いていた英国人女性が失踪した事件を、英紙「ザ・タイムズ」のアジア編集長リチャード・ロイド・パリー氏が丹念に取材した一冊。彼が見る「六本木の夜」は、日本人には決して見えないな、と思う。タブーのない視点で、外国人ホステスや、逮捕された男のエスニック・アイデンティティにも切り込んでいく。

 

ナラタージュ

ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

 

  有村架純さん、松本潤さんらが出演して映画化もされる、島本理生さんの恋愛小説。かつて演劇を教わった男性教師への淡い思いを断ち切れずにいる女子大生の日々。印象的なシーンは、いつも夜の気がする。その静けさの描写が、とっても繊細だ

 真っ暗な夜の中を近所の公園まで出て行くと、黒い半袖のワンピースを着た志緒がベンチに腰掛けて放心したように宙を見上げていた。その服の色のせいで彼女は暗闇と同化しているように見えた。ただ見開いた目だけがガラスの破片のように近くの街灯の小さな光を映していた。膝の上に投げ出された両手やうっすらと無防備に開いた唇が痛々しく、しばらく声をかけられずに立ち尽くしていた。(p266−267)

 島本さんは主人公たちの心の掬い出し方もとっても繊細。いつのまにか物語に入り込んでしまうと思う。気付けば外に、雨の降る音が聞こえるような。

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二重生活 

二重生活

二重生活

 

  小池真理子さんの、異色の「尾行小説」。大学院生の女性・珠が、ソフィー・カルというアーティストに触発されて、「何の目的もなく、知らない人を尾行する」という内容だ。こちらも映画化された。

 尾行するのは当然、夜が多いんだけれど、特に印象的な真夜中のシーンはちょっと違う形で現れる。それが楽しい。

 

裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち

裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)

裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)

 

  沖縄で働くシングルマザーや、DV被害者の女性らの、その人としての言葉をふっと受け止めて、綴ってくださったノンフィクション。著者は上間陽子さん。

 作中のシーンは割と昼間も多い。本書は、何よりジャケットが印象的だ。街灯がぼうっと光を放つ、沖縄の街並み。ここでの「夜」は実際的な夜であると同時に、なかなか出口を見出せない少女たちの状況も象徴している気がする。

 同時に、月並みな表現ではあるけれど、明けない夜はないことも本書は示してくれる。何が少女たちの光になるか。それをぜひ読んでいただけたら。 

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