読書熊録

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論理的狂気ー読書感想「革命のファンファーレ」(西野亮廣)

 絵本の全文をネット公開、テレビ収録中に途中退席、著作権放棄ー。数々の「クレイジーと言われる」所業を重ねながらも、著作のメガヒットを連発している芸人・西野亮廣さん。その頭の中を自ら解説してくれた一冊が「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」だ。驚くのは、あらゆる「炎上」が、実は明晰な分析とロジックに裏打ちされていること。西野さんの「論理的狂気」は、未来のスタンダードになり得るもので、触れてみて絶対に損はない。幻冬舎。

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革命のファンファーレ 現代のお金と広告

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

 

  

「信用」を稼ぐ

 西野哲学の一番のキーワードは「信用」だ。

 

 西野さんの最新の絵本「えんとつ町のプペル」は、制作費をクラウドファンディングで調達、9550人の支援者から5650万4552円を獲得している。その上で、プペルを32万部売っている。疑いのないメガヒットだ。どうして、ここまでたくさんの支援を獲得できたのか?それは西野さんが「信用」を持っていたからだという。

 「信用」を得るには「嘘をつかないこと」、そして「自分の哲学や意思をはっきり表明すること」だと西野さんは説く。だから、西野さんはテレビ番組の収録で途中退席した。何の信頼もない人物が仕掛けた「いじり」に同意できず、「それはいじりじゃなくて、いじめです」という表明をするためだった。結果、ワイドショーでは「大人げない」と叩かれた。だが、西野さんのファンはむしろ、「嘘をついてやり過ごさない」西野さんへの信頼を高めた。

 西野さんはテレビのギャラという目の前の「お金」ではなく「信用」を稼いだ

 

 「信用」している人物のチャレンジに、人はお金を提供するいわゆる「ファン」だ。西野さんはこの図式をはっきり見通していて、「ファン」とはすなわち「ダイレクト課金者」だと指摘する。

 ここで「ゲスの極み乙女。」を例えに出していて分かりやすい。スキャンダル後も彼らが活動を続けられるのは、彼らの音楽性を心から愛する、「信用」するファンがCDやライブを通して「ダイレクト課金」するからだ。だから、お茶の間の「好感度」と「信用度」はまったく違う。この解きほぐしは実に明快だった。

 

無料化とは「マネタイズの後ろ倒し」

 続いて興味深く読んだのは、プペルを全文、ネットで無料公開したことだ。

 

 絵本を無料公開したら、誰も買わないんじゃないか?。その推測は完全に違った。無料公開したプペルは、当時23万~24万部で落ち着きそうだった部数をさらに伸ばし、30万部の大台を突破したのだった。ここにも、西野さんの鋭い分析がある。それは、「絵本を買うお母さん・お父さんの気持ち」に対する分析だ。

 

 まず、絵本をなぜ買うのか?子どもへの読み聞かせ、なんじゃないか。読み聞かせをするとき、絵本は「横にめくる」。だが、無料公開したプペルはあえて「縦スクロール」にした。こうすることで、「この絵本、面白いな。読み聞かせたい」と思った保護者は「横にめくる」ことができる実物の絵本を買うのである。

 

 そもそも、絵本はそんなにたくさん買わない。子どもは同じ絵本を何度も読み聞かせしてもらっても、全然盛り上がるからだ。一方で、忙しいお母さんらに、書店でじっくり絵本を選ぶ時間がない。だとすれば、選ばれる絵本は「面白いと分かってる」作品だ。「無料化」をして、まず読んでもらって、「面白いと分かってる」状態になれば、その絵本は買われやすくなる。

 

 西野さん、すごい。読んでいてうなるしかなかった。西野さんの話を聞いた後は、むしろ「無料化」以上に合理的な広告と販売戦略はないんじゃないかと思える。西野さんは「無料化」の意図を、端的にこう説明する。

  一見無料のようだが、その実、マネタイズのタイミングを後ろにズラさいているだけの話。

 入り口を無料にすることで、更に大きな見返りを狙っている。時間差でお金は発生しているのだ。(p106)

 無料化は、マネタイズ(収益化)を後ろ倒しにしているだけ。「作品への対価をその場で得る」という従来のマネタイズの方法と、そもそも発想が違ったのだ。

 

見習うべきは問題のブレークダウン

 こうした西野さんの発想法・行動論理はまだまだ本書のごく一部で、ページをめくる度に学ぶべきエッセンスに出会う。その中で、一番勉強になるものは何か。それは、西野さんの「問題のブレークダウン」、ある問いをさらに分解して、緻密なロジックを作り上げる手法だと感じた。

 

 冒頭で出るエピソードが分かりやすかった。絵本製作は従来、「分業ができない」ことが常識だったという。漫画や映画がチームによる「分業」なのに、なぜ絵本だけは作者1人が全てを担うのか?

 西野さんは原因を追及し、「絵本市場が極端に小さい」ことに行き着く。市場が小さいから売り上げも天井が見えていて、チームで作業するためのギャランティーが用意できない。つまり、「分業ができない問題」は「お金が払えない問題」だったのだ。

 だから西野さんは「絵本をつくる」前に「お金を稼ぐ」作業に入った。これがクラウドファンディングによる資金調達である。そして「お金を稼ぐ」ためには「信用を稼ぐ」ことが必要で、「信用を稼ぐ」ためには「嘘をつかない」ことが大切。行き着く先には、失礼なテレビ収録の途中退席がある。

 

 「絵本は分業ができない」という問題を「信用を稼がないといけない」という問題までブレークダウンする。結果だけ聞いてしまえばめちゃめちゃ納得するけれど、ゼロからここまで思いつけるかと自分が問われれば、全然自信がない。ここに西野さんのすごさがある。西野さんは簡単そうにこう言っているけど。

 ついつい飛ばしてしまいがちな「作り方を疑う」という作業から始めると、何やら人が手をつけていない問題が出てきた。つまり、その時点で他との圧倒的な差別化を図ることができたのだ。あとは問題をクリアするだけ。(p27)

 西野さんのやったことを表面的になぞって、なんでも我を通したり、なんでも無料化したって成功しないだろう。むしろ、問題に突き詰めて向き合う姿勢、「そもそもを疑う」姿勢にこそ、成長のヒントがありそうだ

 

 今回紹介した本は、こちらです。

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

 

 

 未来の働き方、クリエイティビティのあり方をビビッドな言葉で解き明かしてくれるという点で共通するのが「現代の魔法使い」落合陽一さんの「超AI時代の生存戦略」です。テクノロジーと生き方の融合のさせ方を学べます。

www.dokushok.com

 

 プペル同様、「全文無料公開」で話題を呼んだ小説が宿野かほるさんの「ルビンの壺が割れた」。こちらも大ヒットしましたね。

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