読書熊録

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アメトーーク!「本屋で読書芸人」で紹介された本の感想と、次にオススメしたい本

 11月16日(木)、アメトーーク!で「本屋で読書芸人」が放送されました。東野幸治さん、光浦靖子さん、又吉直樹さん、カズレーザーさんが紹介された「好きな本」は、どれも本当に素敵そう。たまたま東野さん、又吉さんが読まれた本の読書感想をこのブログで書いていたので、まとめてみました。と同時に、それぞれの本を気に入られた方へ「次にオススメしたい本」も考えてみましたので、ご笑覧ください。

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「蜜蜂と遠雷」(東野幸治さん推し)

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  恩田陸さんによる青春小説。幻冬舎。第156回直木賞受賞作としても有名です。国際的なピアノ大会が舞台。それぞれのピアニストの「ピアノへの向き合い方」を通じて、人生そのものへどう立ち向かっていくかを考えさせられます。読み進めるうちに心の中にエネルギーが溜まっていって、「物語の力」を色濃く感じる一冊。いま、人生がしんどい、という方にこそ読んでいただきたい。

 「蜜蜂と遠雷」が好きな方には、平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」(毎日新聞出版)を手にとっていただきたいと思います。「蜜蜂と遠雷」が才能のぶつかり合いを通して「未来」への力を授けるものだとすれば、「マチネの終わりに」は変えられない「過去」への向き合い方を教えてくれる、ちょっとビターな小説。でも読後は、やっぱり力に溢れて来ます。

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「ルビンの壺が割れた」(東野さん推し)

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  宿野かほるさんによるミステリー小説。新潮社。発売前に全文をネット公開して話題をさらいました。とにかく、ネタバレに触れずに、いち早く手にとっていただきたい物語です。「絶対に騙される」という触れ込みの本は明らかに怪しいですが、かなり意気込んで読んだ結果、騙されました。

 「ルビンの壺が割れた」がタイプな方は、きっと「出版禁止」(長江俊和さん、新潮文庫)もハマるはずです。ある心中未遂事件の真相を追うジャーナリストが、「出版禁止」にならざるを得ない渦に入り込んでいく。たぶん、多くの方が「どういうこと?」となってネット検索するようで、このブログのエントリーにも年中アクセスがあるほど、解けない謎が頭を悩ませます。

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「明るい夜に出かけて」(東野さん推し)

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  深夜ラジオを題材にした青春小説。筆は佐藤多佳子さん、新潮社。実際に放送されていた「アルコ・アンド・ピース」さんの「オールナイト・ニッポン」が物語の核となっていて、ラジオリスナーにはたまらない(リスナー以外にもわかりやすく描かれています)。ラジオってさみしい時に耳を傾けるものだと自分は認識していますが、本書はまさにそうしたさみしさ、ままならなさを大切に掬ってくれています。

 傷だらけの思いしかしなくても青春ていいよな、って思える本としてオススメしたいのが、豊島ミホさんの「檸檬のころ」(幻冬舎文庫)です。豊島さんは、青春を描く時に「別れ」を前提にしている気がする。でもそれが真実で、渦中にいても終わりの予感を感じながら過ごすのが、青春の甘酸っぱさだったりしますよね。

檸檬のころ (幻冬舎文庫)

檸檬のころ (幻冬舎文庫)

 

 

「ボクたちはみんな大人になれなかった」(東野さん推し) 

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  ツイッターで絶大な哀愁を漂わせる会社員燃え殻さんによるブルースチックな青春小説。新潮社。人によっては、読んでいて汗の匂いがするかもしれません。澄み切った夜空が眼に浮かぶかもしれない。あるいは、ガソリンの臭い。始発前の街の空気かも。それぞれの「あの頃」を呼び覚ます、タイムスリップ性のある物語です。

 「ボクたちはみんな大人になれなかった」は「過ぎ去った恋」がキーワードになると思いますが、同じ「過ぎ去った恋」でスモーキーに仕上げてくれた恋愛犯罪小説が「未必のマクベス」(早瀬耕さん、ハヤカワ文庫)です。似ているようで似ていない、でもなんだか近しい燻んだ空気を感じる。そしてどちらも、一気読み不可避の圧倒的な世界観です。

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「R帝国」(東野さん、又吉直樹さん推し)

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  ディストピア小説だけれど、読む人が読めば予言の書、あるいは政権批判、あるいはあらゆるヘイトを詰め込んだ劇薬でしょうか。「教団X」で衝撃を与えた中村文則さんの最新小説。中央公論新社。こちらは逆に、ハートが元気な時を推奨したいほど、憎悪や怒りや人間の闇がごった煮です。

 こちらはもう30年近く前の1986年発表の作品ですが、マーガレット・アトウッドさんの「侍女の物語」(斎藤英治さん訳、ハヤカワepi文庫)を次のオススメに挙げたいと思います。「R帝国」がどことなく日本の今を写したディストピアだとすれば、「侍女の物語」は「トランプ政権の未来」と言われています。「反女性」を突き詰めた先に、たしかにこんな社会がありうると唸らせる作品です。

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

 

 

「成功者K」(又吉さん推し)

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  芥川賞作家として成功した羽田K介、もとい羽田圭介さんによる、ノンフィクションとフィクションの境界をぶっ壊す小説。いろんな意味で羽田さんにしか書けなかったな、と思わされました。これがフィクションだとしてもノンフィクションだとしても怖くて面白い。不思議な読書体験ができると思います。

 こういう「リアリティ小説」とも言える虚実入り混じるタイプの物語は、ご本人の心の中に分け入っていくようで面白いですよね。「エロ屋」の紗倉まなさんがAV撮影をテーマに書かれた「最低。」もまさにそんな感じ。非常に面白かったです。

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「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」(又吉さん推し) 

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  オードリーのツッコミとしても知られる若林正恭さんのエッセイ。KADOKAWA。若林さんが夏休みにキューバを旅行するよ、って話で、いつものように過剰な自意識と鋭い切り口で社会主義社会を眺めていくのは大変興味深い。でも本作はそれだけじゃなくて、ある「仕掛け」というか「秘密」が隠されているんですよね。若林さんに一本取られました。

 キューバに行った次は、カナダの牧場に行ってみませんか?。オススメは元電通マンの前田将多さんがカウボーイを目指して旅立つノンフィクション「カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で」(旅と思索社)です。広い空が見えます。心がふっと、軽くなります。

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 「全裸監督」(東野さん推し) 

全裸監督 村西とおる伝

全裸監督 村西とおる伝

 

  こちらは読書感想をまとめておりませんでしたが、抱腹絶倒した半生記。前科7犯、借金50億円、米司法当局からの求刑は懲役370年。むちゃくちゃな数字をいくつも持つ村西とおるさんの痛快すぎる人生を、伴走してきた本橋信宏さんが伝えてくれます。帯の言葉通りなんですが、自分の人生って最低だなんて、村西さんの前では到底言えません。最高にクレイジーな一冊でした。太田出版。

 

 読書芸人、次回も楽しみです。それまでにたくさん、素敵な本に出会いたい。