読書熊録

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一人で始める働き方改革ー読書感想「「自分」の生産性をあげる働き方」(沢渡あまね)

 働き方改革はいまここから、一人でも始められる。業務改善士・沢渡あまねさん「『自分』の生産性をあげる働き方」は、そのためのガイドになる。労働生産性を上げるのは、単に労働を効率化するだけではない。自分らしく、豊かに、高度な人材になるための第一歩になる。明日からすぐ導入できそうなTipsをテンポよく教授してくれると同時に、「これからの社会で活躍するための『優秀さ』とは何か」について、新たなマインドセットをしてくれる。PHP研究所。

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「自分」の生産性をあげる働き方

「自分」の生産性をあげる働き方

 

 

「働き方改革」の何があなたのためになるのか?

 この本を読んで良かったな、と思えたのは、まず「働き方改革をなんのためにするのか」という疑問を腹落ちすることができたから。あなたはこの問いに、さっと答えられますか?

 

 沢渡さんは「はじめに」で、「自分の仕事の生産性を上げる」ことは、単なる「時短」だけではないと明言する。ここに働き方改革を自分ごとにするための鍵がある。

 個人で生産性をあげるというと、どうしても時短による作業効率化を追い求めてしまいがちです。それだけでは良い仕事はできません。周りの期待にも応えられなければ、自分の成長にもつながりません。

  • 得意な仕事が自分に舞い込んでくるようにする
  • 勝てる分野で、勝てるようにする
  • 苦手を克服しやすい環境をつくる
  • 苦手を苦手といえる空気感を作っておく
  • モチベーションに左右されずに、淡々とこなせるやり方に変える
  • いざというとき、頼り/頼られる人間関係を整えておく
 いわば、自分に有利な環境をセットアップする。それは、パソコンのショートカットキーのように覚えてすぐできるものではなく、意識して習慣化して実現できるものです。(p4)

 個人の生産性を上げるとは、職場に「自分に有利な環境をセットアップする」こと。こう言われると、俄然、働き方改革に興味が出る。それは会社のためだけじゃなく、自分自身のためになるからだ。

 

 生産性を上げるということを、沢渡さんは箇条書きにしたような「得意な仕事・苦手な仕事」「頼りやすさ」「淡々とこなせるやり方」という具体的なTipsにブレイクダウンする。そしてそれを積み重ねることで、得意なことで存分に力を発揮し、苦手なことをうまくいなせる労働環境が作れると説く。時短は、あくまでその結果、副産物でしかない。

 

 一言にまとめれば、より面白く働くために、生産性を高めることは有効なのだ。

 

報告書は先に書く、自分・仕事を「メニュー化」する

 沢渡さんはこの後、具体的な「生産性のあげ方」を雨あられのように示してくれる。目次の見出しを示してみても、「自分にタグ付けしよう」「聞かれ上手を目指そう」「100点志向を捨ててハッタれ!」など、多岐にわたる。

 

 その中でも、実際に自分が仕事に導入してワークハックになった2つの「あげ方」を紹介したい。「報告書は先に書く」「メニュー化」である。

 

 「報告書を先に書く」は単純明快で、本来、仕事や会議が終わった後に作成する報告書を、「始まる前に書いてしまう」というものだ。金曜日が締め切りの週間報告なら、月曜日に書いてしまう、みたいに。

 やってみると、実際にできるもの。さらに先に書くメリットは、本来は報告書なのに、まるで「予定表」のように機能して、先が見通せるようになることにある。沢渡さんはこれを「リアクティブからプロアクティブに」と解説する。

 「報告」というルーチンワークを、単なる結果記録のツールではなく自分のための目標設定と管理のツールに置き換えてしまうわけですね。

 上司にいわれたからやっている、というやらされ感たっぷりのリアクティブ(※)なルーチンワークが、自分の仕事をラクにするためのプロアクティブ(※)な計画業務にはやがわり!(※リアクティブ:物事が発生した後にアクションを起こすこと。プロアクティブ:物事が発生する前に事前に予測してアクションを起こすこと)。(p98)

 

 続いて、「メニュー化」。これは自分の仕事や、自分の持っている特徴を本の「目次」のようにまとめる手法だ。

 沢渡さんの場合、過去に自動車会社の購買部門と海外マーケティング部門に勤務していたときの自分をメニュー化すると、こんな感じになる。

自分メニュー

  • システム開発業務におけるオフショア(海外)ベンダーの開拓と発注選定
  • 情報システムの英語化
  • 海外従業員向けのブランドプロモーション活動の企画と運営
  • 海外従業員向けのシステムアカウント管理のヘルプデスク運営
  • 海外販売会社向けの新車試乗会イベントの企画と運営
  • 南アフリカ、中近東向けのWebシステムの要件定義と、現地での導入支援(p51)

 こうやってメニュー化するメリットは、自分自身の中で経験やスキルが整理され、可視化することだ。このメニューが自分の中にあれば、社内の何気ない会話の中で、「自分はこんなことができますよ」とさっと引き出しを開けられる。

 メニューのない飲食店が(ほとんど)ないように、自分が「何をアウトプットできるか」をまず自分自身が理解することは、とっても有意義だった。

 

「T型人材」を目指す

 本書後半では、日々の仕事から目線を遠くにして、スキルアップやキャリアアップについても論じている。その中で、「T型人材」という言葉が、これからの社会のキーワードになりそうだと胸に残った。

 

 沢渡さんはビジネスパーソンの資産を「特殊(Special)資産」「汎用(General)資産」の二つに分けて考える。

 特殊資産とは、「特定の分野」における経験やスキルだ。たとえば自動車会社を例にすると、車に関する知識や、車の売り方、試乗会の企画立案は、「自動車販売」という決まった分野で発揮する力になる。

 対して汎用資産は、同じ経験やスキルでも「分野に依存せず」使える。たとえば試乗会の企画立案を通して獲得した、コミュニケーション能力や、マネジメント能力、異文化理解力は、同じ経験であっても汎用資産に分類できる。

 

 沢渡さんは、特殊資産は産業の導入期、成長期には価値を持つが、徐々に目減りしていく資産だと指摘する。一方で汎用資産は、たとえ転職しても使える「ポータブルなスキル」。特殊資産に比べて擦り減りにくいとみている。

 一方で、汎用資産だけで、たとえばコミュニケーションスキルやマネジメントで食べていける人はごくごく少数で、あらゆる仕事に専門性や特殊性はつきものだとも語っている。

 

 ここで出てくるのが「T型人材」である。沢渡さんの解説。

 横が汎用(General)資産で、縦が特殊(Special)資産。Tの文字。よく見ると釘に似ています。

 横(頭の部分)にも縦にも長い釘は、木材に抜きやすく刺しやすいです。ところが、横(頭の部分)が小さい釘は抜きづらく刺しづらい。もし、いま釘が刺さっている木材が朽ちてしまったら……抜くことができずに木材ごと捨てられてしまうかもしれません。木材をあなたの職種や部署にたとえると、その職種あるいは部署ごと消滅。

 しかし、抜きやすい釘であれば、新しい木材(職種や部署)に再度打ち付けてもらえることでしょう。身近なことからコツコツと、「T」を目指しましょう。(p248)

 汎用資産を釘の頭の部分(横)、特殊資産を刺さる部分(縦)にすると、横が短い釘は刺しにくく、抜きにくい。もちろん前提として、縦に極端に短い釘は、そもそも刺せない。横と縦、特に横(汎用資産)をきっちり伸ばした「T字」になろうというのが、沢渡さんのアドバイスになる。

 

 T型人材になるために必要なこととして、「特殊の中から汎用を見出す」というマインドセットが挙げられている。同じ車を売るという経験も、そのままでは特殊資産であり、きちっとフィードバックをしてメタ化すれば、汎用資産になる。だから沢渡さんの指摘するように、大それたスキルアップよりも、日々の「コツコツ」とした「反省」が重要になる。

 

 今回紹介した本は、こちらです。

「自分」の生産性をあげる働き方

「自分」の生産性をあげる働き方

 

 

 会社員よりはるかに短いキャリア寿命を運命づけられているアスリートの働き方から、上手な働き方を考える傑作が「仕事人生のリセットボタン」です。中原淳先生と為末大さんの掛け合いが非常にユニークです。

www.dokushok.com

 

 沢渡さんも重要性を指摘している「モチベーションに左右されず、淡々と仕事をする」力の付け方を学ぶ教科書として、コンサルタント相原孝夫さんの「仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか」をお勧めします。モチベーション0.0のパワーを感じられます。

www.dokushok.com