最近、「本の雑誌」さんを手に取り始めた。もうすぐバックナンバーになってしまうかもしれないが、2018年1月特大号(No.415)「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」は、紹介された本を実際に読んでみると傑作ばかり。増刊号の「おすすめ文庫王国2018」もまた、胸にヒットする本があった。もしも読む本に迷った時、「本の雑誌」が頼れるぞ、と言いたいがためだけにこのエントリーを書いてみた。
あんまり出しちゃうとネタバレでよくないと思うけれど、「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」の総合部門1位は、遠田潤子さんの小説「オブリヴィオン」。これが冬の空気のように張り詰めた、でも心地良い素敵な物語世界だった。
遠田さんは実は、「雪の鉄樹」で前年の「文庫王国」ベストテンのナンバーワンにも輝いている。本の雑誌さんが一貫してプッシュを続けてきた。
たとえば映画で言えば、「そして父になる」とか「怒り」とかが好きだという方は絶対にハマると思う。それでいて、これまで描かれてきたノワールの作品とはまた違う、遠田さんらしいとでも言えばいいのか、綺麗で汚れた世界が描かれている。
ほかにも、3位にエントリーされたノンフィクション「インターネットは自由を奪う」も自分的メガヒットだった。IT起業家のアンドリュー・キーンさんが、グーグルやアマゾン、フェイスブックといったインターネット経済の覇者を真っ向から批判する痛快な内容だ。
本の雑誌さんのベストテンは、営業や編集の方の座談会形式で決まるのが面白い。特定の評価項目を決めて採点するようなタイプじゃない。それぞれが「この本を推したい」というのを持ってきて、ベストテンに入れてほしいと主張するのだ。これが平和的でコミカル。「インターネットが自由を奪う」なんて、「空いている1番上に入れてください」というプッシュの仕方で見事3位にエントリーされた(笑)。
上位10作品のほかに、エントリーされていないくても俎上に登った作品も素敵だ。たとえばJ1鹿島の元選手岩政大樹さんのサッカー哲学本「ピッチレベル」は、プッシャーの「営A」さんが「サッカー界の野村克也誕生です!」と盛り上がるのも頷ける、豊かな言葉に溢れたエッセイだった。
PITCH LEVEL: 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法
- 作者: 岩政大樹
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2017/09/19
- メディア: 単行本
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総合に続いては、SF、ミステリー、ノンフィクションなど部門ごとのベストテンも紹介されている。こちらはそれぞれ選者がチョイスされ、その人が独断と偏見でピックアップしていく。
たとえばSFは鏡明さんが担当し、「上巻を読んだ時点で、これが一位だと思った」と猛プッシュしてくれたのが小川哲さんの「ゲームの王国」。これは本当に激しく同意で、ランキングを見て新年最初に読んだが、2018年一番にしちゃっていいんじゃないか、という面白さだった。
「おすすめ文庫王国」はこうした素敵本セレクションの文庫版になる。こちらの一位は須賀しのぶさんの高校野球小説「夏の祈りは」だった。雑誌を開くまで知らなかったので早速買いに行ったが、たしかに傑作。「読んでよかった」と思える青春小説だった。
自分が面白いと思っていた作品がエントリーされていると、それも喜びである。2017年で「出会えてよかった」と何度も思った早瀬耕さんの恋愛・犯罪小説「未必のマクベス」がそれに当たった。北村浩子さんによる恋愛小説部門で堂々の1位、宇田川拓也さんによる国内ミステリー部門で9位と、ダブルランクインを成し遂げてくれた。
「未必のマクベス」の魅力は、語っても語っても足りない。香港やアジアを舞台に、マクベスを下敷きにした悲劇が進行する。セリフも登場人物も食べ物や飲み物も、全部が魅力的で、輝きというより優しいきらめきに満ちている。
自分も二つの「本の雑誌」を手に、本屋を歩き回ってみたいと思っている。
ぜひ読みたいと思っているのが、小説では滝口悠生さんの「茄子の輝き」。震災後の東京で暮らすある男性の生活を描いているらしいが、「魅力を一言で語るのが難しい」と評されているのが、なんとも気になる。
海外ミステリーでは「ウインドアイ」(ブライアン・エブソンさん)。「奇妙な味」の短編集らしいが、何よりその装丁デザインが不気味で惹きつける。
ノンフィクションでは文庫の「サンダカンまで わたしの生きた道」(山崎朋子さん)と、「三種の神器 天皇の起源を求めて」(戸矢学さん)の二作。前者は、自分は知らなかったのだが「サンダカン八番娼婦」の作者で日本の女性史に名を残された作者の自伝という。後者は、平成が終わる今に改めて天皇制について思いを馳せたいと思い。
前半で触れた本は個別に感想をエントリーしていますので、ご覧いただけましたら幸いです。以下、一覧です。