読書熊録

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ゆったりゲリラ―読書感想「ナリワイをつくる」(伊藤洋志)

 超競争社会を生きるための、ゆったりしたゲリラ戦略の参考書が伊藤洋志さんの「ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方」だ。グルーバル市場で勝ち抜ける自信も、AI時代に淘汰されない確信もないという「非バトルタイプ」にこそ読んでほしい。「頑張ろう」じゃなく「ちょっとやってみよう」と思える一冊。ちくま文庫。

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ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

 

 

ナリワイ=役に立つ小さなこと

 伊藤さんが提唱する「ナリワイ」は副業や起業とはちょっと違う。

 いろいろと言葉を変えて説明してくれるが、要するに役に立つ小さなことだ。

 伊藤さんのナリワイが分かりやすい。冒頭で紹介してくれる通り、年に2回だけやる「モンゴル武者修行ツアー」。パン焼きの短期講座。木造校舎での結婚式。シェアオフィス。シェア別荘。梅の収穫の助っ人。床張り。などなど。

 それぞれ数万円から数十万円の稼ぎという「小規模な自営業」だ。

 それを組み合わせることで月収数十万円を実現する。これがナリワイの戦略。

 伊藤さんの「平和なゲリラ」という言葉がしっくりくる。

 ナリワイで生きるということは、大掛かりな仕掛けを使わずに、生活の中から仕事を生み出し、仕事の中から生活を充実させる。そんな仕事をいくつもつくって組み合わせていく。いわば現代資本主義での平和なゲリラ作戦だ。だからマーケットを分析して投資を得て、どーんと一大事業を立ち上げるとかでもないし、ましてやレバレッジなんたらとかでちょっとしたノウハウで軽く儲ける、というものではない。年に1回で30万円のナリワイや、毎月3万円や5万円など同時に何個ものナリワイを持って生活を組み立てて行こう、という地味なやり方だ。(p33)

 このゆったり感が本書の魅力だ。

 会社員にとって会社以外の活動を考えるとき、どうしても会社員かそうでないかのゼロサムゲームの議論に巻き込まれがちだ。会社に勤めるのは「社畜」だとか、フリーランスで食っていく力のないヤツはダメだ、とか。

 ナリワイはいま、ここから、気軽に始められる。

 たとえばこういうブログだってそう。休日に気ままに書き始めて、ちょいちょい広告をつけたら、だんだんとナリワイらしくなる。

 自分は趣味の範囲でやってるけども、それでも「何かを生み出している」感は、会社員生活に潤いをくれる。 まさに生活の中から仕事を生み、その仕事が生活を 充実させる効能を実感する。

 

ハードルは低くて良い

 伊藤さんはローリスク・ローリターンを推奨する。

 逆に言えば、いまの仕事観はあまりにハードルの高さを求めすぎだと喝破する。

 起業ムーブメントに水を差す意見として、「新しい価値を提供できなければ起業する意味がない」というようなことがよく言われる。世間の声というのは、起業に対して何かとハードルとプレッシャーをかけがちである。

 だが、そもそも仕事の起源を考えてみれば、皆がやるのが面倒なことを誰かがやってくれたら有り難いなあ、ということをやる気のある人が担当してきたということだ。確かに豆腐を毎日各自がつくっていたら、大変だ。だから、誰かが手を挙げて豆腐づくりを担当してくれて、それが仕事になっている。(p43)

 やってくれたらありがたい、がすなわち役に立つことだ。

  後半で伊藤さんはいまのグローバル経済で、いわゆる「それだけで食っていける仕事」を得ようとやっきになることは「サッカーの素人がいきなりワールドカップに出ること」と表現している。たしかにだ。

 それよりは、もっと仕事というものを「小さく」とらえたほうが得策だろう。

 

ナリワイがでかくなったら、会社をやめたっていい

 ナリワイと会社員は並立するのがありがたい。その上で伊藤さんの金言がある。

 「会社をなんとなく辞めたい」と思ったとき、伊藤さんはまずは余暇でナリワイをつくりまくればいいと指南する。

 「会社であんまり生きている感じがしない、なんとなく辞めたいなあ」という方は、辞めるべきかどうか悩むよりも、とりあえず余暇でナリワイをつくりまくって、それが忙しくて会社に勤められない、というぐらいになってしょうがなく辞める、ぐらいの気持ちでいたほうが自然でよいと思う。あんまり悩むと、決断ができない自分に嫌気がさしてしまう。そんな無用な嫌気で自分の評価を下げる必要はない。(p200)

  この部分を読んだ時にちょうどブロガーのヒトデさんが浮かんだ。

www.hitode-festival.com

 最近会社を辞めて独立されたヒトデさんだけれど、まさにヒトデさんのナリワイがブログだったように思える。

 本人も話されているように、衝動的に辞めたんじゃなく、そのナリワイが十分すぎるほど育ってから、「好きなことで生きていく」という道を選んでいる。

 ここに、生きづらい会社員の光明があるように思う。

 いきなり辞めなくってもいい。そこまで思い詰めなくて良い。

 その代わりに、ナリワイを増やそう。ちょっとずつ人の役に立とう。

 その先に転職や起業があってもいい。そうじゃなくても、きっとナリワイがある会社員生活はそれまでよりちょっと心地良いはずだ。

 一見して使われる勤め方でも、「盗まれない生き方」はできる。そんな勇気をもらえた気がします。

 

 今回紹介した本はこちらです。

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

 

 

 同時並行の仕事の重要性と言えば、堀江貴文さんの「多動力」のテーマでもありますね。こちらは舌鋒の鋭さがあります。

www.dokushok.com

 

 人生の切り替えを考えるなら「仕事人生のリセットボタン」もおすすめです。為末大さんと中原淳先生の対談本。

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