読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

戦場の匂いがするー読書感想「レッド・プラトーン」(C・ロメシャ)

アフガニスタンの最前線にある米軍の前哨が、タリバン兵に囲まれた。味方は50人、敵は300人ー。実際にあった絶望的戦闘を、生き残った兵士が振り返るノンフィクションが「レッド・プラトーン 14時間の死闘」だ。目をみはるのは、著者のクリントン・ロ…

余白を見つめてー読書感想「リスクと生きる、死者と生きる」(石戸諭)

「被災者」ではなく「ひと」として向き合う。本書「リスクと生きる、死者と生きる」は東日本大震災という大きなテーマを扱ったノンフィクションながら、徹底した「個」の言葉にこだわる。著者は元毎日新聞記者で、現在はネットメディアBuzzFeed Japanの記者…

下を見ろ!おれがいるー「全裸監督 村西とおる伝」(本橋信宏)

「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ!おれがいる」。ノンフィクションライター本橋信宏さんの「全裸監督 村西とおる伝」の帯に書かれた言葉は、圧倒的なパワーワードだ。主人公は異才の男・村西とおる。アダルトビデオや裏本(非合法わいせつ雑誌)に…

そのコンテンツはスナックしてる?ー読書感想「人生の勝算」(前田裕二)

これからのコンテンツビジネスを語る上で欠かせない言葉はきっと、「スナックする」なんだろう。ライブ配信サービス「SHOWROOM」代表の前田裕二さんの「人生の勝算」は、SHOWROOMのローンチからヒットまでの道筋を辿りながら、スナックする、「余白(参加可…

現役記者の緊迫犯罪小説ー読書感想「スリーパー 浸透工作員」(竹内明)

思わず一気読みしてしまった。それほど引き込まれる北朝鮮クライムノベル「スリーパー 浸透工作員 警視庁公安部外事二課ーソトニー」の書き手は、TBSの現役記者・竹内明さんだ。おそらく取材現場で垣間見たであろう、公安捜査の内幕がふんだんに取り込まれて…

success!!ー読書感想「ネコノヒー」(キューライス)

小説でもノンフィクションでもなく、漫画だけど紹介したい。止むに止まれずそうしちゃう気持ちを呼び起こすのが、キューライスさんの4コマ漫画集「ネコノヒー」です。たいていのことがうまく運ばないぽっちゃりネコのネコノヒーの日々。かわいそうなんだけ…

対話こそー読書感想「CRISPR(クリスパー)究極の遺伝子編集技術の発見」(J・ダウドナ)

科学技術が天使になるか、悪魔になるか、決めるものはなんだろう? 「CRISPR(クリスパー)究極の遺伝子編集技術の発見」の著者であるカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士は、「対話」だと説く。クリスパーはまさに、夢の技術だ。遺…

アメトーーク!「本屋で読書芸人」で紹介された本の感想と、次にオススメしたい本

11月16日(木)、アメトーーク!で「本屋で読書芸人」が放送されました。東野幸治さん、光浦靖子さん、又吉直樹さん、カズレーザーさんが紹介された「好きな本」は、どれも本当に素敵そう。たまたま東野さん、又吉さんが読まれた本の読書感想をこのブロ…

左右→上下ー読書感想「ポピュリズムとは何か」(水島治郎)

右派・左派に分かれる従来型の代表制民主主義を、ポピュリズムは「下vs上」に変える。オランダ政治史や比較政治学が専門の水島治郎さんの「ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か」は、世界や日本の「今」を見るための大切な視点を教えてくれた…

人生をプレーするー読書感想「ピッチレベル」(岩政大樹)

これはサッカーを通じて人生を学ぶ本なんだ。元鹿島アントラーズのディフェンダー、岩政大樹さんの「PITCH LEVEL ピッチレベル 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法」を読んで、思わず膝を打った。プロとしての思考を余すことなく言語化してくれてい…

斥力を見よー読書感想「彼女たちの売春」(荻上チキ)

売春の背景には、「引力」だけではなく、「斥力」がある。荻上チキさんの「彼女たちの売春(ワリキリ)」は、冷静なトーンで売春を「社会問題」として描き出す。出会い喫茶や出会い系サイトで、個人として売春を行う女性らへの、親身なインタビューを縦糸に…

大泉洋さんが動くー読書感想「騙し絵の牙」(塩田武士)

活字の上を、大泉洋さんが動いてる!!グリコ・森永事件を題材にした「罪の声」でブレークした塩田武士さんの最新作「騙し絵の牙」は、役者・大泉洋さんを「あてがき」(役をあらかじめ決めて作品を書くこと)した小説だ。塩田さんはきっと大泉さんが大好き…

命を懸けてから、守ってにー読書感想「過労自殺」(川人博)

「命を懸けて」仕事をするのではなく、「命を守って」働けるように。過労死、過労自殺の問題に長年取り組んでこられた弁護士川人博さんの「過労自殺」には、そんな切実な思いが込められている。本書の第二版が出版されたのは、2014年7月。その後も、電…

宝物になる日ー読書感想「通りすがりのあなた」(はあちゅう)

友達ではないけど恋人ではない。他人じゃないけど親密でもない。はあちゅうさんの初小説集「通りすがりのあなた」は、そんな「名前のない関係」の豊かさを、ふわっと心に注いでくれる。でも「固定的な関係」を否定する本じゃない。自分にすら関係性をうまく…

草原へ連れていってー読書感想「カウボーイ・サマー」(前田将多)

心を遥か遠く、草原へ連れていってくれる本がある。「カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で」だ。コピーライターの前田将多さんが勤務先の電通を辞めて、憧れのカウボーイになろうと、牧場で働くノンフィクション。カウボーイの実態を伝えるのでは…