たくさん逃げようー読書感想「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由」
著者のイラストレーター・汐待コナさんの漫画にネットで出会い、救われた。働いて働いて辛くて、そんな自分の状況を視覚化してくれて、「世界は、本当は広いんです」と背中を押してくれた。本作「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由」は、話題になってネット漫画に、精神科医ゆうきゆうさんの監修とアドバイスを加えて書籍化したもの。丁寧に、丁寧に「逃げること」を肯定してくれる、心の処方箋でした。自分がブログを大切にしたい理由も、再確認。
逃げないんじゃない、逃げ道が目に入ってないんだ
話題になったネット漫画は、こちらなどで読める。本来の出典は汐街さんのツイッターになります。
過労自殺「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由 漫画作者に聞く - withnews(ウィズニュース)
広告制作会社で90〜100時間の残業時間が常態化していた時、「そんな気もないのに、うっかり自殺しそうになった」という話。この漫画で一番、「そうなんですよね」と思ったのは、休職や辞職や転職といった、人生のさまざまな道や扉を「真面目な人ほど塗りつぶしてしまう、何度も何度も、丁寧に」というくだりだった。死ぬくらいなら会社辞めれば?という、周囲から投げかけられて当然の疑問と当人の認識のギャップはここなんだと思う。逃げないんじゃなくて、逃げ道が目に入らないんだ。
自分語りになります。自分も今まで、会社で100〜150時間の残業を「当たり前」だと思って働いてきた。結局そのまま突っ走って、いろんな大切なものを失って目が覚めて、いったん労働負荷が少ない部署に移してもらって、生活を見直した(そんなことが可能な勤め先はまだまだホワイトなんだと思う)。汐街さんの漫画に出会ったのはそんな時で、ある意味手遅れだったけど、それでも救われた。
「当たり前」だったその時、自分には一本道しか見えなかった。周囲には、「好きだからやってるんでしょ」と思われて、そういう側面も確かにあったかもしれないけど、自己認識としては「頑張るしかないから頑張っていた」。当時、なんでそういう思考回路になるのか自覚はなかったけれど、汐街さんの言う通りだと思う。真面目に仕事に向き合う中で、他の選択肢を丁寧に塗りつぶしていた。
書籍化された「死ぬ辞め」にはいろんなテーマで、見開きの短い漫画が載っているが、その中に「好き’”だから”?」という作品がある。台詞だけ引用させてもらうと、
「自分のやりたい仕事」だから
「自分の好きな仕事」だから
「自分で選んだ仕事」だから
だからがんばるのは当たり前
だから長時間働くのも当たり前
(中略)だから限界超えても努力し続けるのも当たり前
だから、だから、だから、
”だから”過労死するのも当たり前?(p28ー29)
脇目もふらず、という言葉がある。本当に頑張りたい時、いろんな誘惑や甘えを塗りつぶしてしまうことは、間違いではなんだろう。でも働き過ぎてる人は、その要領で休暇を、大切な人との時間を、自らの健康をも塗りつぶしている。
真面目に逃げ道をつくる
本書で一番刺さった漫画は、「あとがきにかえて③」だった。汐街さんはデザイナーを過労で辞めて、漫画家としても売れる作品が書けず、「今まで2回夢を諦めています」と打ち明ける。でも、「死ぬ辞め」は大反響を呼んで、多くの読者に届いて、書籍化までされた。さらに部数は10万部を突破した。反響は、それだけ苦しむ人が多いことだから喜べることではないとした上で、汐街さんはこんな気付きを書いてくれている。
「漫画で多くの人の心を動かしたい」という夢は思わぬ形でかなった。道はつながっているんだなと 今感じています(p152ー153)
この言葉に、またも救われた気がした。諦めても、逃げても、道はつながっているんだと。
逃げ道を塗りつぶしてしまう、働きすぎな人たちは、きっと一生懸命に逃げるしかないんだと思う。意図的に、逃げ道をつくること。それでもきっと大丈夫だ。汐街さんが、諦めた先でも絵を描き続けているように、手放した夢は願い続ける限り、形を変えて戻ってくる。
自分にとって、そんな風に逃げ道を作ろうと思ってやり始めたのが、ブログだった。結局、転職はせずに同じ会社にいて、今はまた多忙な部署で、外形的には前のような働き方をしている。でも、今はいろんな可能性を塗りつぶしてはいない。
こうやって読書感想をブログにあげて、スターをつけてくださる方やブックマークをつけてくださる方に励まされて、読者になっていただいた方や、はてなで活躍されている方などのブログを読んで「面白いな〜〜!」と声をあげて。
どんなに忙しくても、ブログを書いてる時間・読んでいる時間は、仕事「以外」の自分になれる。あらゆる重荷を放り出して、逃げて、息を大きく吸い込んで、とってもすっきりできる。
過労が「当たり前」の時に思っていた、「逃げたらダメだ」という気持ちはいま、微塵もない。汐街さんの漫画が読み返すたびに、語りかけてくれるからだ。「たくさん逃げよう」と。
今回紹介した本はこちらです。