読書熊録

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超高速だまし小説―読書感想「ルビンの壺が割れた」(宿野かほる)

「絶対だまされない」と警戒する読者の上を行く。

そんな「だまし力」を持った小説が宿野かほるさんの「ルビンの壺が割れた」だ。ポップや帯の惹起は「あなたは絶対にだまされる」「結末のあと、もう一度読み直す」。最高レベルの警戒をもってしても、上手をいかれた。

「時短小説」というのも触れ込みだ。ポップには「1時間だけください」ともある。それも嘘ではない。まさに超高速だまし小説だった。新潮社。

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ルビンの壺が割れた

ルビンの壺が割れた

 

 

いつの間にか、割れていた

帯の裏面の担当編集者の台詞が、この作品の良さを端的に示している。

この本を手に取られた方は、二つに分かれるはずです。既に割れてしまった人と、まだ割れていない人。既に割れた方は、どうぞカバーの裏面へ……。そうでない方は、今すぐ読み始めてください!(帯の裏)

まさに、である。読後の感想は何かが「割れた」感じだ。

それも、いつの間にか。

本書は今年7月から、担当編集者が「すごすぎてコピーを付けられないので、読んでコピーを考えてほしい」としてネット上で全文公開されて話題になった。だから8月20日の発行から間もないのに、ネットにはネタバレから解説、考察があふれている。

でも絶対に開いてはいけない。もったいない。

 

最小限のあらすじとしてamazon上の公式説明から一部を抽出する。

「男がかつての恋人にSNSでメッセージを送る」話だ。

これなら物語のページを開いた瞬間に入ってくる情報でもあるから、大丈夫だろう。

そこからの展開は一切触れない方がよさそうだ。

 

絶対にだまされると言われたら、だまされないように読む。伏線に気をつける。物語の細部にヒントがあるはずだと注意深く読み進める。

それでもダメでした、とだけは言ってもいい気がする。

まさに壺はいつの間にか割れていた。

それと予告通り、最初に戻って二度読みした。

1時間で読めるのは本当だ。むしろ、一気読みは必至。

そういう意味では、つくづく惹起通りの誠実な小説とも言える。

 

最近の良作小説には、引用やあらすじ紹介を「なるべく控えた方が良いな」と思わされる作品が多い気がする。

たとえば、映画化もされた住野よるさんの「君の膵臓をたべたい」もそう。作品の世界観や物語の展開、結末が飴細工のように凝縮していて、そのままそっと味わってほしいような、そんな気になる。

燃え殻さんの「ボクたちはみんな大人になれなかった」も、できれば限りなくフラットな形で物語にはいってほしい。タイムスリップのような独特の読書体験は、読むを超えて味わう、同じ空気を吸うというような感じで。

 

「ルビンの壺が割れた」も単純に、ネタバレしたら成立しないっていうミステリーの鉄則はもちろん、ぴーんと張った緊張感は、なるべく鮮度よく味わってほしい。

 

今回紹介した本はこちらです。

ルビンの壺が割れた

ルビンの壺が割れた

 

 

二度見必至のミステリーと言えば、長江俊和さんの「出版禁止」。たぶんみなさん、読後に「なんだこれ」とネット検索するんでしょう。このブログでもずっと読書感想にアクセスがある作品です。

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だまされた、とは違うけど、自分の足元がぐらぐらと揺れる不安定さを味わうなら、柚木麻子さんの「BUTTER」がおすすめ。

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「君の膵臓をたべたい」と「ボクたちはみんな大人になれなかった」の感想はこちらです。

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