読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

編集会議17年秋冬号「シン・編集力」が本好きに超オススメだった

 雑誌「編集会議」の2017年秋冬号「特集・シン編集力」(10月16日発行)が、読書ファン・本好き必見の超面白い内容だったので、紹介したいと思います。前半に「2017年ヒット本を生んだ『編集力』」などと題して、堀江貴文さん「多動力」や、西野亮廣さん「えんとつ町のプペル」の仕掛け人や、NewsPicks編集長・佐々木紀彦さん、荻上チキさんなどそうそうたる顔ぶれを取材。「本・メディアが読まれない時代に、それでも本・メディアを売ろう」という気概は、読む側にとってワクワクが止まらない中身です。株式会社宣伝会議の刊行。

f:id:dokushok:20171025071343j:image

 

出版界の黒船になる

 まずは「多動力」をプロデュースした幻冬社の箕輪厚介さん。箕輪さんはSHOWROOMの前田裕二さんが語る「人生の勝算」や、格闘家青木真也さんの「空気を読んではいけない」など、エッジの効いた本を次々世に出されている。

 「多動力」では、ゲラ段階で堀江さんのオンラインサロンメンバーに公開し、なんと「発売前に口コミ評価がネット上にある」という状況を作り出した。発売するとNewsPicksやツイッターを全力駆動させて、スピード感を持って販売を促進。箕輪さん自身もオンラインサロンを開いていて、今では幻冬社の給料を超える収益があるらしい(すごい)。

 「編集者自ら本を売る」という革命的手法を打ち出す箕輪さんには、自分が「出版界の黒船になる」という逆転の発想がある。インタビュー記事ではこんな風に語る。

 だからといって何もしないままだと、5年後、10年後に新しい発想と仕組みを持った新興勢力が現れて、喰われてしまう。新興勢力となる黒船が来て、出版業界が「何か来たぞ、ヤバい!」と思っていたところに「黒船をよく見ていたら箕輪が乗っているじゃないか!」ということになれば、幻冬社としてはラッキーじゃないですか(笑)。(p16)

 黒船をよく見ると箕輪が乗っているじゃないか!と。アウトサイダーに進んでなる箕輪さんもすごいけど、それを許容する幻冬社もすごい。これからも「箕輪本」は読書の台風の目になりそう。

 

社内で確認しないスピード感

 「えんとつ町のプペル」の編集者・神山満一子さんも幻冬社。幻冬社どんだけタレントいるんだよ。

 神山さんの話で面白かったのは、こちらも革命的なプロモーションにチャレンジする西野亮廣さんの前では、「社内で確認します」はNGだということ。

 プペルは全文をネットで公開したことで話題になったが、公開したいと西野さんから連絡を受けた神山さんは「わかりました!」と即答。心の中では「えーーーー!」と思ったらしいけど。そのあとで社内の営業部に電話して「すみません、全文、無料公開になります」と連絡したらしい。会社も預かり知らないゲリラ的な作戦だったようだ。

 箕輪さんしかり、このスピード感が「刺さる本」づくりの肝になって来ているのかもしれない。売れない、売れないじゃなくて、売れかもしれない方法をすぐに試す。実際、プペルは全文公開後も部数を伸ばし、全文無料公開は新潮社の小説「ルビンの壺が割れた」にも応用されている。

 

投げ銭システム

 NewsPicksの佐々木紀彦さんは、2013年「5年後、メディアは稼げるかーMONETIZE OR DIE?」を出版し、間もなく5年。ツイッターでちらっとおっしゃっていたけど、来年は「5年後、メディアは稼げたか」をぜひ出版していただきたい。

 佐々木さんはネットメディアのマネタイズに関して、「中国の投げ銭システムが先行している」と指摘していて、興味深かった。記事に対して10円課金など、少額の支払いが浸透しているという。10円でも、もし1万人払えば10万円。ヒット記事が出れば、いまの月額課金より充分収益が出そうだ。

 こうした投げ銭は、小説やノンフィクション業界にも入って来てほしいなと思う。本を読む量が減ったけど、良質な作品を待っている読書ファンは少なくないんじゃないだろうか?自分も、作家を育てる土壌のために必要で、日々の懐に響かない少額なら、喜んで投げ銭したいと思う。

 

「大人の学校」がメディア開設

 メディアはどんどん多様化するなー、と思わされたのが、社会問題の現場を訪れるスタディツアーを事業とする安部敏樹さんの「リディラバ」が、今冬に新たなメディアを立ち上げるという記事。こういう社会的な組織、NPOとメディアの親和性は高そうだなと思う。誰もが「問題・課題」だと感じる「現場の生の声」は、社会の一員として興味がついつい湧いてくる。企業のオウンドメディアとは違った展開になりそう。いずれは、リディラバのメディアを書籍化する、リディラバが「出版社になる」という可能性もありそうだ。

 

推し本!!

 まだまだ面白い記事はあるんだけれど、ラストにこれ。インタビューに応じた編集者・仕掛け人の「推し本」が一覧化されている!!!このページを見るためだけに本書を買ってもいいんじゃないでしょうか。各人1冊、見開きで計19冊。

 「サピエンス全史」など有名どころもあるけれど、「全裸監督」「ワンルーム・シーサイド・ステップ」など「その人らしい一冊」が集結。この人が薦めるなら読んでみようかなと思えるはずです。

 

 今回紹介した雑誌はこちらです。

 

 「多動力」のレビューは良作があるので引けを感じますが、本ブログでも感想をアップしています。

www.dokushok.com

 

 全文公開で話題を呼んだ「ルビンの壺が割れた」の感想はこちらです。

www.dokushok.com