読書熊録

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そのコンテンツはスナックしてる?ー読書感想「人生の勝算」(前田裕二)

 これからのコンテンツビジネスを語る上で欠かせない言葉はきっと、「スナックする」なんだろう。ライブ配信サービス「SHOWROOM」代表の前田裕二さん「人生の勝算」は、SHOWROOMのローンチからヒットまでの道筋を辿りながら、スナックする、「余白(参加可能性)」「常連客」の重要性を教えてくれる。コンテンツ新論としても面白いが、幼くして両親を亡くした前田さんが「運命に負けない」ために編み出した「努力論」としても読ませる。幻冬社・NewsPicks Book。

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人生の勝算 (NewsPicks Book)

人生の勝算 (NewsPicks Book)

 

スナックの力は「余白」と「常連客」

 前田さんは「全てのファンビジネスの根幹はスナックなのではないか」とまで主張するほど、スナックというコミュニティに注目している。では、スナックのどんなエッセンスにそんなにも重大性があるのか。それが「余白(参加可能性)」と、「常連客」であるという。

 

 「余白」とは、スナックの客がママを手伝える余地のこと。ビジネスに置き換えれば、サービスの消費者が、その生産者/運営者の側に入り込める余地のことだ。どういうことか。前田さんはこんな風に説明する。

 僕がよく行くスナックでは、ママが本当にずぼらで、すぐに酔い潰れてしまうので、お客さんがグラスを洗ったり、お酒を作ったりしています。これは、普通のレストランでは考えられないことです。もはやお客さんと店員の境目がなくなっているのです。一度、店員というゾーンにまで行ってしまったお客さんは、お店が自分の居場所であり、守るべき城だと思うようになります。(p42)

 前田さんは、これからのコンテンツは、「お客さんが参加できる可能性」を持っている方が強いと指摘する。たしかに、人気レストランでも激しい競争の末に淘汰されてしまう中、スナックは何十年も維持されている。ママが酔い潰れても、である。

 

 なぜスナックのような「余白」がコンテンツビジネスでも意味を持つかと言えば、インターネットを始めた様々なテクノロジーの民主化によって、消費者が生産者でもある社会が到来したからでもある。もはや、完全に受け身の消費者は存在しない。一方でコンテンツは生産過剰で、どんなに完璧なコンテンツを世に出しても、別の完璧なコンテンツに取って代わられる可能性がある。

 

 だから、消費者が参加できる「余白」のあるコンテンツが人気を集める。こうなった時に、もう一つ大切なスナックの要素「常連客」が俎上にのってくる。常連客がスナックを支えることで、スナックは強固なコミュニティになり、常連客の素敵さが「信頼を生むクレジット」になるからだ。

 

 「余白」と「常連客」を意識して大成功を収めているビジネスが、「AKB48」だと前田さんは指摘する。

 「自分がいなくても、このアイドルやアーティストは成立してしまう」という感覚にオーディエンスがなってしまうと、熱を帯びたコミュニティは生まれにくい のです。いわば、現代人の多くは「自分の物語」を消費していて、何か完璧な「他人の物語」を消費することには、飽き飽きしているのです。(p47)

 

ハイクオリティ=インタラクション

 「余白」を作って「常連客」になれるようにすることで、「他人の物語」を「自分の物語」に変えていけるようにする。この仕掛けは、「インタラクション(相互作用)」とも言い換えができる。そして前田さんが世に出したライブ配信サービス「SHOWROOM」は、このインタラクションを大切にしている。

 

 従来、動画配信サービスは動画を「視聴する」ためのサービスだった。つまり、コンテンツ提供者が主役であり、消費者はあくまで受け手。しかしSHOWROOMは、受け手側のオーディエンスそのものをコンテンツにしているのが特徴だという。

 

 それはまず画面設計に表れている。SHOWROOMは、縦長の携帯画面で視聴した時、演者が映るスペースよりも、オーディエンスらの写し身である「アバター」の表示スペースの方が大きくなっている。これにより、たとえばオーディエンスがアバターの服装を揃えたりして、演者への応援の気持ちをはっきりと表現できる。「演者が面白い」だけじゃなく、「この演者のライブ会場が面白い」という状況も生まれうるのだ。

 また、アバターは演者に「投げ銭」ならぬ「バーチャルギフト」を演者に渡すことができる。これも、ほかのアバターに可視化されているので、ギフトが飛びかえばお祭りのような楽しさがある。

 

 SHOWROOMに登場する演者は、アイドルを目指す女性もいれば、50歳になってアイドルを目指したいという人もいる。コンテンツの作り込み方で言えば従来の「アマチュア」にカテゴライズされるかもしれないが、前田さんはむしろ、「インタラクションがあるコンテンツがクオリティが高いとなるように、SHOWROOMを通じて再定義したい」と意気込む。

(中略)エンターテイメントでは、原則として、一定のプロフェッショナリズムや、完成度が求められます。しかし、現代においてもっと重要なのは、表現者が、支えてくれるオーディエンスのところまで降りて、しっかりと丁寧なコミュニケーションをすることです。観客は、演者と自分との距離を実感できたとき、今までになかった感動をん味わい、より濃いファンと化します。

 現代のクオリティコンテンツとは、プロがお金をかけて練り上げた完成品ではなく、その先にあるファンとのインタラクションがきちんと綿密に設計・実行されたものである、という価値観を、SHOWROOMを通して再定義しています。(p86)

 これからのハイクオリティはインタラクション、つまりお客さん抜きには成立しないものになる。説得力のある話だ。

問い:読書は生き残れるか?

 本書は「努力論」としても秀逸。前田さんは元々、外資系投資銀行でバリバリに働いており、SHOWROOMを立ち上げるためにDeNAに移った後、さらにSHOWROOM設計の段階ではまさに血眼になって努力をしてきた。その内実もめちゃくちゃ面白いのだが、ぜひ本書を読んでいただくとして、ここでは最後に、「インタラクション全盛になる未来で、読書は生き残れるのか」という問いについて考えてみたい。

 

 読書とは、その行為自体にインタラクションがない。いや、正確には「筆者の言葉」と「読者の内面」には対話が起きているが、行為そのものは1人で孤独に行うものだ。本を読みながら、誰かとつながりあうというのは、どうにも難しそうに思える。

 活字離れの要因のひとつは、もしかしたらインタラクションの不在にあるんだろうか?消費者が受け身にならざるをえないサービスに、未来はあるんだろうか。

 

 活路としては、本を読んだ後にインタラクションできる「場」を作ることだろうか。これからは「書籍は商品ではなく広告になる」と語ったのは、絵本「えんとつ町のプペル」を無料公開した芸人・西野亮廣さんだ。

 本そのものにお金を払う人が減る中で無理やり本を売るより、広告と割り切って、違った形でマネタイズができるのではないか、と。読書文化を存続させるために、全国の本好きはこの辺の課題についても思考を巡らせていったほうがよさそうだ、と思いました。

 

 今回紹介した本は、こちらです。 

人生の勝算 (NewsPicks Book)

人生の勝算 (NewsPicks Book)

 

 

 コンテンツの未来を考える上では、前田さんと並んでキングコング西野亮廣さんがフロントランナーだと思います。西野さんが広告論、マネー論を語り尽くした「革命のファンファーレ」は必読の一冊かと。

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 起業ストーリーって、ビジネスや生き方に活かせるような学びに溢れている。いまや日本でも有名になった宿泊仲介サービスAirbnb(エアビー・アンド・ビー)の成功までの紆余曲折も相当に面白かったです。余すことなく伝えてくれている「Airbnb Story」をどうぞ。

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