読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

0の力ー読書感想「仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか」(相原孝夫)

 モチベーションに関わらずパフォーマンスを出せることが最強である。人事組織コンサルタント相原孝夫さん「仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか」は、そんな「モチベーション0.0」という革新的なアイデアを授けてくれる。決して煽りじゃない。「ロサダ・ライン」「職人」「習慣化」「自己完成」といった概念を丁寧に示してくれて、モチベに「縛られない」メリットを学べる。幻冬舎新書。

 f:id:dokushok:20171210133831j:image

 

仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか (幻冬舎新書)

仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか (幻冬舎新書)

 

 

1ネガティブを打ち消すには3ポジティブ要る

 なぜ、モチベーションにこだわらないことが最強なのか?この議論で最も心に響いたのは「ロサダ・ライン」、要するに「1つのネガティブな意見や行動の悪影響を打ち消すには、3倍の量のポジティブな行動や意見が必要である」という原則だ。

 

 モチベーションがあることはもちろん素敵だ。溌剌として、幸せそうに、周りにもパワーを振りまきながら働けるとすれば最強中の最強であることは、論を俟たない。

 問題は「モチベーションがないとき」なのだ。全てが逆転する。やる気がみられず、活力がなく、消極的で、なんならイライラしながら仕事をされたらどうだろう?最低中の最低である。しかし、モチベーションにこだわる限り、上がり調子な時もあれば不調の時もあって、すなわち「最低中の最低を引き起こしかねない」のではないか。

 

 ロサダ・ラインは数学者のマルシャル・ロサダさんが、10年間にわたって業績のいいチームと悪いチームを研究し、導き出した数学的モデルだ。正確には、メンバー間のポジティブな相互作用とネガティブな相互作用の割合が、2・9013対1でなくては、ビジネスでの成功は難しいと指摘している。(本書61pに基づく)

 

 モチベーション高く仕事する(ポジティブな相互作用)以上に、モチベーションが低い時に不機嫌に仕事をする(ネガティブな相互作用)ことの衝撃は大きい。簡単に言えば3倍大きい。モチベが低いからといって何もかもダメという人が1人いるだけで、ポジティブな人が3人必要になる。

 だったら、そもそもネガティブにならないようにすべきではないか。モチベーションに左右されない「0.0」の力はこれだけでも、自分は納得できてしまった。

 

職人と習慣化

 相原さんは、モチベ抜きで仕事をしている人として「職人」を例示する。ご自身が家を建てた時、間近でその仕事ぶりをみて感じたことを、こんな風に語る。

 ほんの一ヶ所でも何かがずれているなど、おそらく、「そんな恥ずかしい仕事はできない」という職人の意地があるのであろう。それは、やる気やモチベーションといったレベルのこととは無関係に思われた。少なくとも、企業で問題になっているモチベーションとはまったく異質のものが存在していた。「職人の心意気」や「職人としての誇り」とはよく言われるが「職人のやる気、モチベーション」という言われ方は聞かない。やる気ではなく、心意気や誇りで働いているのだ。そこにはやる気のあるなしなど、モチベーションの入り込む余地がないのである。(p129)

 モチベーションという言葉を使わず、誇りや当然といった思考で仕事に臨むことは可能である。職人さんの仕事ぶりは、相原さんにそう教えてくれた。

 

 ここから相原さんはモチベーションが問題にならない働き方を明確にする。

 結局、モチベーションが問題にならないケースは三通りある。一つは、好きなことをやっている時であり、もう一つは、それをすることが当たり前になっていること、つまり習慣化していることをやっている時、そして三つ目が、切迫した余裕のない状況にある時だ。(p139) 

 そして、この中では「習慣化」が導入しやすく、習慣にすることで、職人のように「当たり前」に仕事ができるのではないかと提唱する。(好きなことは常にやれるとは限らないし、切迫した状況で仕事をするのは危険だ)。

 

自己実現から自己完成へ

 さらに相原さんは「『モチベーション』から『つながり』へ」と題して、モチベを超えた先の「なんのために働くのか」を論じてくれる。中でも胸に残ったエッセンスが、「自己完成」という概念だ。

 

 これは、経済学者E・F・シューマッハーさんが「宴のあとの経済学」という本の中で提唱しているらしい。相原さんの説明。

(中略)労働についてしっかりした考えを持つことの重要性を唱えている。次の三つを労働の目的として整理している。

  1. 必要かつ有用な財とサービスを得ること
  2. よき執事のように、各人が自分の能力を使って自己を完成させること
  3. その場合、他人のために、他人と協力しながら行動して、生来われわれの内部にある自己中心主義から、自らを解放すること

 「よき執事のように」自らの能力を使って「自己を完成」し、他人と協力しながら「自己中心主義から自らを解放すること」 。こんなにも鮮明で、胸を打つ「なんのために働くのか」という問いへの答えに久しぶりに出会った気がする。

 

 自己完成は自己実現とは違う。自己完成は「社会や他人のため」に自らを創る。それはあくまで「自分のため」に自らの理想を追求する姿勢とは、根本的な価値の置きどころが異なる。まず他人がいる。社会がある。その中で「つながり」を持ちながら成長する楽しみを、「自己完成」という一語は集約しているように思う。

 

 モチベーションにこだわらずに働くとは、機械のように働くことではない。むしろ、「自分なんかよりはるかに大きい何か」のために、あるいは「大切な誰か」のために働こうとするとき、自然に立ち現れる「穏やかな姿勢」なんじゃないか。それはまるで祈りとか、悟りに似ているのかもしれない。本当のポジティブとは焚き火のように、優しくて暖かいものなんだ。

 

 今回紹介した本は、こちらです。

仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか (幻冬舎新書)

仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか (幻冬舎新書)

 

 

 モチベーションと並んで永遠の課題に挙がるのが「努力」ではないでしょうか。アンジェラ・ダックワースさんの「GRIT やり抜く力」は、能力の育成とパフォーマンスの二段階で努力が効果を発揮するから、その重要さを明確にしてくれます。

www.dokushok.com

 

 モチベーションが高い上司というのは、パワハラをしやすいという点も相原さんは指摘しています。自らを守って働く方法を学ぶ意味で、弁護士川人博さんの「過労自殺」は非常に有益な本になります。ぜひご一読ください。

www.dokushok.com