読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

2017-01-01から1年間の記事一覧

リスナーに灯火をー読書感想「明るい夜に出かけて」(佐藤多佳子)

深夜ラジオを主軸に、真夜中を舞台に、かさぶたを撫でながら生きる若者を主人公にした、傑作の青春小説だった。佐藤多佳子さんの「明るい夜に出かけて」は、ラジオの生の言葉の感じを巧みに文体に織り込んで、ラジオが救いになる世界を立ち上げる。特にオー…

突破力×α個=多動力ー読書感想「多動力」(堀江貴文)

堀江貴文さんが本書「多動力」で提示する多動力は実に明快だ。それは「サルのように」熱中し、突き抜けたパワー・事業を、同時にα(複数)個進行させて「掛け合わせる」ということ。多動は足し算ではなく掛け算なんだというのがポイントだろう。そして多動の…

読むエスプレッソー読書感想「ザーッと降って、からりと晴れて」(秦建日子)

サラッと読めて、でもぐっと癒される本がある。そういうページ数の少ない、厚みの薄めの本が好きだ。「アンフェア」の生みの親で知られる秦建日子さんの連作短編集「ザーッと降って、からりと晴れて」(河出文庫)は、まさにそういう、エスプレッソやぐーっ…

あれ、幸せってなんだっけー読書感想「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」

バラエティ番組やCMで活躍の上、「オールナイトニッポン」MCとして深夜の無数の寂しい魂を沈めてくれている、超人気お笑いコンビ・オードリー。そのツッコミ担当・若林正恭さんが綴ったエッセイ「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」は、短い夏休み…

たくさん逃げようー読書感想「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由」

著者のイラストレーター・汐待コナさんの漫画にネットで出会い、救われた。働いて働いて辛くて、そんな自分の状況を視覚化してくれて、「世界は、本当は広いんです」と背中を押してくれた。本作「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由」は、話題に…

あの頃の気持ちに会いに行こうー読書感想「ボクたちはみんな大人になれなかった」(燃え殻)

わずか150ページあまりに、青春が凝縮されている。燃え殻さんのウェブ連載を書籍化した小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読んで、浮かんできたフレーズは、ザ・ハイロウズのあの名曲の一節だった。「時間が本当にもう本当に止まればいいのにな」…

逃れられない罪ー読書感想「イノセント・デイズ」(早見和真)

主文、死刑。罪状、元彼氏への未練、自分を置いて幸せになる恨みから居宅へ放火し、中にいた妻と1歳の双子の命を奪った。本書「イノセント・デイズ」は、凶悪としか言いようがない事件を起こしたとされる、ある女性死刑囚の物語だ。刑事コロンボよろしく、冒…

放射線と戦えるのか?ー読書感想「『心の除染』という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか」

福島第1原発事故後、速やかな除染対策を打ち「除染先進都市」と評価された福島県伊達市を舞台に、「放射線被害とどう向き合うか」を問い掛けるノンフィクション。著者のジャーナリスト黒川祥子さんは伊達市がふるさと。事故後も生活を、子どもを守るお母さん…

ドラえもんと「有用性」―書評「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」

人工知能(AI)が普及した未来では、雇用・労働はなくなる。その未来は、13年後の2030年から、もう始まっていく。本書「人工知能と経済の未来」で、著者井上智洋さんはそんな衝撃的な予想を打ち出していく。そして、そんな社会でどう生きるのか。人…

社会の成分は女性への不自由、男性へのいたわりー書評「BUTTER」

独身男性3人から財を搾り取り、殺害したとして逮捕されたのは、たっぷりと肉がついた身体を揺らす、美しさの尺度からかけ離れた女だった。食べたいものを食べる、太っても気にしない、男に尽くし、貢がせるー。欲望には忠実に、一方で旧来的な「女らしさ」を…

憎悪の刃は自らに返ってくるー「相模原障害者殺傷事件 優生思想とヘイトクライム」

相模原市の障害者施設が襲撃され、入所者19人の命が奪われた殺傷事件が起きたのは、2016年7月26日のことだ。本書「相模原障害者殺傷事件 優生思想とヘイトクライム」の第1刷発行は翌年1月5日で、半年ほどの極めて早いスピードで、事件の根本にある、安楽死…

ラジオの言葉は流れていくから美しい

6月8日木曜日、TOKYO FM から全国ネットで放送されたラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」に感動した。「未来のカギを握る」ラジオの中の全国規模学校がテーマで、平日午後10〜12時に主に中高生の悩みや主張を取り上げていく。この日に聞いたこと、感動した内容を…

アナザー星を継ぐものー「巨神計画」

アメリカの少女が森の地中から発見したのは、合金製の巨大な「手」だったー。タイトル「巨神計画」で、そして上下巻の表紙にまたがる緑色の怪しい「巨人」の姿で、そそられないわけにはいかない。ジャケ買いして正解です。とんでもない謎解きが、すさまじい…

池上・佐藤流「情報漁船」のつくりかたー「僕らが毎日やっている最強の読み方」

情報を海に例えれば、本書「僕らが毎日やっている最強の読み方 新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意」は、その海を渡る「漁船」のつくりかたを指南してくれる。著者は元NHK記者でジャーナリストの池上彰さんと、元外務省主任分…

「演劇」ではなく「劇場」だった理由を思う―「劇場」

芸人であり作家の又吉直樹さんの二作目。「劇場」のタイトル通り、東京を舞台に、舞台演劇の演出家・永田と、学校に通いながら役者もする沙希を軸に物語が進む。読み始めて止まらないのとは反対で、何度も、何度も立ち止まって本を閉じてしまう一冊だった。…

アニメ版を知らずに観た「美女と野獣」で感動した

「美女と野獣」を映画館で観た。本家のディズニーアニメをこれまで一度も観たことがなく、実写化の再現性がどうなのか、もともとの世界観の通りなのか、ストーリーに違いがあるのかは一切分からないけれど、ただただ感動した。あまりに有名な内容なんだろう…

骨は見えないー「骨を彩る」

淡い黄色のイチョウが舞う表紙に心ひかれた。作者・彩瀬まるさんが、住野よるさんの「よるのばけもの」の書評を週刊文春に書かれていて、なんとなく優しい人だなと感じたのも、本作「骨を彩る」を手に取るきっかけになった。表紙のように儚く、そっと手を触…

未知への向き合い方―「星を継ぐもの」

地球から離れた月面で、いるはずのない5万年前の「人間」の遺体が見つかった。どこから来たのか、我々地球人と同じなのか?―。本書「星を継ぐもの」は壮大な謎に遭遇する物語であり、その未知への向き合い方を教えてくれる作品だ。

GWも仕事でへとへとな人に薦めるNetflix映画5選

今週のお題「ゴールデンウィーク2017」仕事でへとへとになっていると、ゴールデン・ウィークも何もない。人によっては連休のどこかで、溜まったタスクを片付けに行っていらっしゃるだろうか。しかもあと3日しか残ってねえや。そんな方が、つかの間、心をリ…

狂っていく最中に狂っているとは気付けない―「成功者K」

芥川賞を獲得した男性小説家Kは一夜にして「成功者」となった―。本書「成功者K」のあらすじだけを見ると、著者羽田圭介さんの私小説に思えて仕方がない。これが作品の最大のスパイスになっている。Kは成功を機に、ファンの女の子をとっかえひっかえにして…

トランプを生んだ「絶望の吹きだまり」―「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」

トランプ氏が、どうして米大統領になれたのか。その背景に「ラストベルト」(錆び付いた地帯)と呼ばれる衰退した工業地帯がある。黒人やヒスパニック系移民が、米社会のマイノリティかと思っていたが、ラストベルトの白人労働者こそ鬱屈した閉塞感を抱えて…

ポケモン化するメディア、その見取り図―「ネットメディア覇権戦争」

情報を伝える・受け取るための「メディア」は、まるで一つの生態系をつくっている。NHKの速報テレビニュースや新聞各社のネット速報が発信されると、「ヤフーニュース」「ライブドアニュース」のトップトピックスにも表示され、新興メディア「バズフィー…

ひとり飯も悪くないと思える小説4選

Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」 小説の食事シーンの中には、かぐわしい匂いや料理の色合いまで鮮明に浮かぶような、思わず「食べたい」一コマがある。「何を食べるかより、誰と食べるか」とは言うものの、ひとり飯も悪くない。そう思えるような作品…

読後こそ楽しいサスペンス―「出版禁止」(長江俊和)

日本中のラジオがいつでも聴けるアプリ「radiko(ラジコ)」で知ったDJに、浅井博章さんがいる。大阪のFM802で毎週日曜日、「モーニングストーリー」と銘打ち、おすすめの本や映画を紹介。読書家の浅井さんがストーリーテラーになる作品はどれ…

プーチンの心臓と犬笛―「ユーラシアニズム ロシア新ナショナリズムの台頭」

なぜこの人は、ムキムキマッチョ、筋骨隆々なのか。独特の威圧感を備えているのか。見る度に不思議が募るのが、ロシアのプーチン大統領だった。昨年秋、安倍晋三首相の地元・山口に来訪するニュースを機に、疑問を解消しようと書店を見て回った結果、手に取…

響き合う才能、人生―「蜜蜂と遠雷」

作者の恩田陸さんは雑誌AERAのインタビューで、作品を生み出すことは列車が駅に止まるようなものだと語っていた。つかの間とどまるが、すぐに次の駅へ向かっていく。直木賞に選出された「蜜蜂と遠雷」は、ターミナル駅のような、ひとつの節目の駅だと話して…

黒人という長い長い轍を生きよう―「世界と僕のあいだに」

生きていくということは、過去を積み上げていくことだ。20歳なら20年。たとえ生まれて1日であっても2日であっても、今日まで生きた日数の上に人生がある。その時間の中の、思い出、楽しみ、苦しみ。まるで足跡のように、過去はたしかに消えないものと…

痛みはその人のものだ―「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」

傷つくことと、傷つけられることは、どう違うのだろう。それは同じ傷であっても、同じ痛みではない。本書「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」は、誰かから暴力を受けるということが一体何を意味するのか、「暴力を受けた側」の言葉で、それも当人たちの…

音楽海賊一代記―「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち 作者: スティーヴン・ウィット,関美和 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2016/09/21 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (2件) を見る 泥棒、強盗、窃盗犯、盗人。盗む人の呼称は…

化け物の姿をした人か、人の姿をした化け物か―「よるのばけもの」

夜になると、僕は化け物になる。 ネタバレではない。書き出しである。『君の膵臓をたべたい』で泣かされた住野よるさんの作品を水平展開。最新作「よるのばけもの」を手に取った。週刊文春の書評で彩瀬まるさんが取り上げていたのも、興味を持ったきっかけ。